インクレディブル・ハルク - 町田敦夫

◆異色のアメコミヒーローをドンパチシーン満載で映画化(60点)

 ご存じスタン・リー原作のコミックを映画化。科学者ブルース・バナー(エドワード・ノートン)は研究所の事故で大量のガンマ線を浴びて以来、怒りで心拍数が200を超えると巨大な緑色の怪物に変身する体質に――というのがハルク誕生の経緯なのだが、この説明をオープニングのタイトルバックだけで終わらせたのには驚いた。予備知識のない者にはさっぱり事情が呑みこめなかったはずだが、ハルクはもはやアメリカ人にとって、聖書やマザーグースと同様の基礎教養なのか?

 アン・リー監督も同じ原作を元に『ハルク』(03)を撮ったが、その後の5年間のVFXの発達は目覚ましく、当然ハルクの戦闘シーンは数段パワーアップ。アン・リー版がブルースと父親との愛憎を軸に据えていたのに対し、アクション演出に定評のある本作のルイ・レテリエ監督は、ハルクと軍とのドンパチを前面に打ち出した、ド派手な娯楽大作に仕上げている。リオのスラム街での追跡劇に始まって、ヘリや戦車との対決、宿敵アボミネーションとの一騎打ちと、アメコミファンへのサービスは万全だ。

 ブルースと同僚の科学者ベティ・ロス(リブ・タイラー)との恋愛模様もアン・リー版以上に深く描かれた。脈拍を200以下に抑えなければならないブルースと彼女との絡みの中で、悲しくもユーモラスなシーンが生まれてもいる。リブ・タイラーが、アン・リー版のジェニファー・コネリーほど優秀な科学者に見えないのが難点だが。

 それにしても『アイアンマン』のロバート・ダウニーJRといい、本作のエドワード・ノートンといい、この夏はアメコミ映画になどとても出そうに見えないこだわり派俳優のマーベル・スタジオ作品出演が続く。

 とはいえ、変身後のハルクは完全なCGで、ノートンにはまったく似ていない。現在の技術を使えばノートンの顔を土台にハルクの顔をデザインしたり、ノートンの顔からハルクの顔へとモーフィングしたりすることは簡単にできるはずなのだが、そうしたシーンは皆無。脚本に手を入れるほどの発言力を与えられていたノートンのこと、さてはハルクになって咆哮を上げる演技だけは勘弁してくれと、すげなく拒否したのかもしれないな。

町田敦夫

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