◆寄る辺なき魂が、孤独という共通項で響き合う(65点)
ご存じ、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(77)のリメイク作。オリジナル版で高倉健が演じた前科者にはウィリアム・ハートが、また武田鉄矢と桃井かおりが演じた若いカップルにはエディ・レッドメインとクリステン・スチュワートが扮している。桃井かおりは小さな(しかし濃い)役で友情出演。監督はインド出身のウダヤン・プラサッドが務めた。2008年作品が今になって公開される事情は定かではないが、もしかするとスチュワート主演の『トワイライト』シリーズが大ヒットした恩恵かもしれない。
6年の刑期を終えて出所したばかりのブレットは、先住民だと名乗る青年ゴーディ、十代の少女マーティーンの即席カップルと知り合い、彼らの車に同乗することになる。アメリカ南部をドライブする道すがら、ブレットは自分の身の上を明かして、こう語る。「妻に手紙を書いた。今でも待っていてくれるなら、ヨットに黄色い帆を張っておいてくれと……」
年齢も境遇も違う3人の男女が、ぎこちない関わり合いを重ねつつ、次第に距離を詰めていくプロセスが心に浸みる。物語が進むうちにわかってくるのは、妻のメイ(『ER』のドクター・デルアミコことマリア・ベロ)と出会う前のブレットが、生きる目的や喜びを何も持たない、死人のような生活をしていたということだ。
先住民に育てられた白人だと思われるゴーディも、自分の帰属する場所をどこにも見出せずにいる様子。演じるレッドメインは、武田鉄矢とはまた違った「ウザさ」を上手に醸し出している。残るマーティーンも父親との間に問題を抱える根暗な女の子。そんな寄る辺なき3人が、孤独という共通項を介して、不器用な友情を紡いでいく。
陰気なロードムービーの背景をなすのは、舞台となったルイジアナ州に残るハリケーン・カトリーナの爪跡だ。3人が旅をする先々に、うち捨てられた廃屋や、簡素な仮設住宅が建っている。そんな荒廃を駆け抜けたあとでは、荒廃せざる人と人とのつながりが、ことさらに尊いものに感じられるのだ。「黄色いハンカチ」という設定を「黄色い帆」に変えたのかと思わせておいて、最後にオリジナル版に敬意を表してみせた演出も心憎い。
(町田敦夫)