◆山田監督の偉大さ再確認(55点)
山田洋次監督が手がけた多くは大衆に愛される映画作品だが、その最高峰に「幸福の黄色いハンカチ」(77年)を独断で挙げたとしても、反論の声はそう多くあるまい。国産ロードムービーの大成功例にして、あまりにも有名な号泣エンディング。日本人の琴線に触れる一途な愛の物語の、しかし原作はベトナム帰還兵のエピソードを綴ったアメリカ人ピート・ハミルによるコラムである。そんな縁もあってか、このたびアメリカで「幸福の黄色いハンカチ」がリメイクされることになった。
刑務所を出たばかりのブレット(ウィリアム・ハート)は、街で若い男女ゴーディ(エディ・レッドメイン)、マーティーン(クリステン・スチュワート)と知り合う。奇妙な縁でドライブする事になった3人は、やがて自分たちの事を話し始める。じつはブレットには、かつて愛した妻にもう一度だけ聞きたい事があった。
山田洋次監督の傑作と、舞台は違えど骨格はまったく同じ物語。配役を見ただけで、往年のファンは次々としゃべりたくなるに違いない。個人的にはクリステン・スチュワート(「トワイライト」サーガで吸血鬼にモテまくるヒロイン役)が、若いのに話のわかるいい女役を好演していたと感じた。
むろん他の役者もそれぞれの見せ場を無難にこなす。とくに廃屋でブレットの悲惨な過去を聞いたゴーディが、マーティーンに涙を浮かべながら反論するシーンには、思わずぐっとくるものがあった。この原住民役をやっているエディ・レッドメインが英国人だといわれたら、みな驚くに違いない迫真の演技だ。
主人公の転落人生に、ドラッグやらが絡むあたりはいかにもアメリカ的で苦笑い。高倉健のように、どこからみても根は善人的なキャラでは漫画的になりすぎるという事か。ありがちな不良外人のほうが共感を得やすい面もあるのだろう。演じるウィリアム・ハートは、懲役2000年以上の服役囚と刑務所で一夜を過ごすという、貴重な役作りの機会を得たという。指南を受ける相手を間違えているような気もするが、相変わらずの安定した演技である。
日本版の成功の一因と私が考える真っ赤なかわいらしいファミリアは、これまたアメリカらしい巨大なドンガラに変更された。
こうした日米の感性の違いはラストにも現れる。こういう小細工はいらないなと私は思ったが、アメリカの皆さんはどう感じるのだろう。
結論としては、結局日本人には山田洋次版以上のリメイクなどあるはずがなく、彼のよさを再確認しただけに終わった。もっとも、日米の違いというものに興味がある人にとっては、別の形で本作を楽しむことも不可能ではないだろう。
(前田有一)