イエローキッド - 福本次郎

◆閉塞感を抱いたまま突破口を見いだせずにいる青年と、創作活動に没頭するあまり現実を見失っていく漫画家。心を傷つけられてもなんとか生きていこうとする姿を、カメラはリアルに切り取り、鬱屈した感情の爆発を冷徹に見守る。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 痴呆症気味の祖母の面倒を見ながらボクシングジムに通う青年は、ボクシング同様に世渡りの才能も運もなく、どうにもならない閉塞感を抱いたまま突破口を見いだせずにいる。新作のヒントを求めてボクサーを取材する漫画家は元恋人に強い未練を残し、創作活動に没頭するあまり現実を見失っていく。二人は導かれるように出会い、人生がシンクロしていく。うまくいかない日常に心を傷つけられてもなんとか生きていこうとする姿を、カメラは痛ましいまでにリアルに切り取り、鬱屈した感情の爆発を冷徹に見守る。

 ボクサー志望の田村はジムの先輩・榎本のパシリに甘んじる日々。ある日、ジムを訪れた漫画家・服部が昔愛読した「イエローキッド」の作者だと知り、新作のモデルを引き受ける。服部は当初の予定を変え、田村をイメージしたキャラクターを主人公にした漫画の構想を練る。

 普段は礼儀正しく優しいが若さゆえに気持ちを持てあましている田村に対し、服部はいい年をして元恋人の麻奈にくだくだと愚痴を垂れ、己の弱さを隠さない。ギリギリのところでバランスを保っていた田村の精神は榎本の行為にキレ、麻奈への劣情を断ち切れない服部はその思いをペンに昇華させつつ妄想に取りつかれていく。祖母の年金を榎本に奪われた田村が商店街でひったくりを働くシーンは、触れると暴発するような緊張感で田村の心情を描き切っていた。

 服部は漫画家という社交性をあまり必要としない職業のせいか、臆病なのに見栄っ張りなオタク的思考法の持ち主。出来上がった作品を田村に見せるとき、「まだ本気出してないけどね」と先に言い訳するシーンが、彼の屈折したプライドを端的に表現する。物語の世界では登場人物の運命を自由に操れる「神」なのに、実生活ではヒーローとはほど遠い。そんな服部が田村の暴走を知って、自分の作品と田村の暴力を同一視していくクライマックスは、麻奈への嫉妬に狂った服部の幻覚なのだろう。押さえつけていた怒りと鬱憤を直截的な行動に移してしまう田村に対し、盗撮カメラを仕掛けるくらいしか頭に浮かばない服部の女々しさがかえって人間らしいリアリティに満ちていた。

福本次郎

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