サイレント映画にはトーキーとはまた違った良さがあることに気づかされる一品。(点数 85点)
(C)La Petite Reine – Studio 37 – La Classe Américaine – JD Prod – France 3 Cinéma – Jouror Productions – uFilm
サイレントでモノクロなのだが、それはあくまで表現法としてこの手法を採用しているのであって、旧来のままのサイレント映画では無い。
サイレントの縛りをメタフォリカルするようなシーンもあって、だからトーキーがすばらしいとか、ではサイレントが至高であるとかの議論を超えて、新しい時代の到来を固辞した男のプライドが過不足なく描かれている。
恥ずかしながら私が観たサイレント映画といえばチャップリンの『街の灯』くらいしかないのだが、映画の中でヒロインの台詞が示すように、サイレントには独特の演技やノウハウがあることを映画を観て改めて教えられた。
すこし誇張した演技や、字幕となって表れる台詞も特に伝えておきたいものに限られて表示されるのであって、それ以外の台詞は字幕に表示されない。
口を動かすだけで宙に消える台詞が大半である。
その断続する情報量を補間するのが映画音楽である。
心の琴線に触れるような曲が薄暗い館内を満たしてトーキーとはまた違った趣きがあるこに気づかされた。
サイレントにはトーキーとはまた違った味わいがある。
この映画で良かったのはトーキーの普及によって仕事を追われた人間の悲哀というよりも、時代を読み違えても自分の選択に責任を持つ人間の潔さというのだろうか。
その気位の高さは”アーティスト”を名前を冠するに値する映画だったと思う。
映画への愛がたっぷりと詰まったこの本作はアカデミー会員からの覚えがめでたかったのも頷ける作品である。
(青森 学)