絶望と死の影に押しつぶされそうなゆっくりとしたテンポの映像からは、繊細な主人公の喪失感が重くのしかかってくるようだ。(点数 70点)
(C)2011「アントキノイノチ」製作委員会
遺品に焼き付けられた故人の思い、それは残された者に思い出となっ
て直接語りかけてくる。愛した記憶、愛された記憶、忘れていた場面
が脳裏によみがえる時、人は命のつながりを感じるのだ。一方で、無
念をいだたまま死んだ人、過去を共有する血縁者のいない人もいる。
それでも、他人に覚えていてもらうことで、確かに存在したという証
を残す。物語は、心が壊れた青年が遺品整理の現場で働くうちに、す
べての人間は誰かと繋がっていると気づいていく過程を描く。絶望と
死の影に押しつぶされそうなゆっくりとしたテンポの映像からは、繊
細な主人公の喪失感が重くのしかかってくるようだ。
【ネタバレ注意】
高校時代、親友の自殺で精神のバランスを失った杏平は遺品整理業者
で働き始める。ハエやゴキブリがわき、ごみが散乱する孤独死のアパ
ートを片付けるうちに、生きるとは何かを考え始める。
誰にも看取られずに逝った人々は、何らかの理由で家族と音信不通に
なった人ばかり。だが、遺族に憎まれ遺産すら引き取りを拒否される
人でも、本当は家族に会いたい気持ちを引きずっていた事実がモノを
通じて語られる。杏平はそういった経験を積むうちに、己の人生もま
た両親や友人と確実に影響し合っているのを学んでいく。
特に老人ホームで息を引き取った女性の夫が留守電のテープを繰り返
し聞いて妻の願いを知るシーンは、人は死んでも苦楽を共にした人の
胸の内で輝き続けることを思い出させてくれる。
(福本次郎)