ヴァンパイアとライカンがなぜ全面戦争する事になったか今明かされる!(55点)
『アンダーワールド』でお馴染みのケイト・ベッキンセイル扮するセリーン、彼女はライカンに家族を殺され復讐に燃える悲しい運命を背負う事になったヴァンパイアの女処刑人だ。実はライカンを襲わせたのはビル・ナイ扮するヴァンパイア族の長老ビクターで、セリーンだけは殺す事が出来なかった。何故彼女は生かされたのか?それはセリーンがビクターの娘の生き写しだったから。『アンダーワールド』で語られたその物語の全貌とヴァンパイアとライカンが全面戦争するに至った理由が『アンダーワールド:ビギンズ(原題:UNDERWORLD: THE RISE OF THE LYCANS)』で明らかになる。
1000年以上も昔、ヴァンパイアは狼男族に実験を繰り返し、人間の姿をした初めての狼男:ライカンを誕生させる。そしてヴァンパイアの王ビクターはその子をルシアンと名付け奴隷として仕えさせた。ビクターの幼い娘ソーニャはルシアンの事が気になり、ルシアンもまた彼女に興味を抱く。大人へと成長した2人は種族を超えるという許されない恋に落ち、それから始まるヴァンパイアとライカンの血で血を争う抗争の引き金を引いてしまう。
本作はシリーズ2作の全編にあたる物語を描いており、今までと顕著に異なる部分はシリーズ初めてライカンの視点で物語が語られる点だ。その監督を務めるのは全2作の監督レン・ワイズマンと交代したパトリック・タトポロスだ。彼は今まで『アイ,ロボット』や『ヴァン・ヘルシング』等多くのSF映画のプロダクション・デザインを手掛けて来たデザイナー。本作が彼の長編映画初監督作品となる。ワイズマンは本作には製作と脚本で参加している。
奴隷のルシアンと処刑人であるソーニャは身分違いの恋をし、彼らの運命は悲劇へと導かれる。この悲しい物語の主人公ルシアンを演じるのは『アンダーワールド』で同じ役に扮したマイケル・シーン。彼は『クィーン』のトニー・ブレア首相役で演技面で一躍脚光を浴び、今年のアカデミー賞にもノミネートされている『フロスト×ニクソン』のデヴィッド・フロストを好演した今旬を迎えているイギリスの俳優だ。本作『アンダーワールド:ビギンズ』ではアクションシーンや拷問シーンを体当たりで演じており、本作では今までの彼に見る事のなかった裸のシーンが多いのが特徴だ。
セリーンに酷似しているとされるビクターの娘ソーニャはモデル出身のイギリス人女優ローナ・ミトラが扮している。ソーニャはセリーン同様、身のこなしが軽く、青白い月の下に華麗に舞い剣を振るう。ビクターはソーニャを寵愛しているが、ソーニャとルシアンが愛し合っていると知ると憤慨し、ルシアンと共に逃げようとするソーニャと戦う一幕も。ビル・ナイはシリーズでは全ての作品に出演しており、本作でもマイケル・シーンと同じくらい出演シーンが多い。残酷なヴァンパイアの王をアクションシーンも交えて演じているが、動きがやはりビル・ナイ独特でどうしても微笑まされてしまうのが嬉しい。
2003年の『アンダーワールド』は現代が舞台だが、『ビギンズ』は中世が舞台。よって戦闘服等の身に付けるものは革や鉄製のもので、建物は石造りだ。ヴァンパイアの武器も銃ではなく、剣や弓矢で、狼男族と交戦する際には体の大きい狼男達の方が有利にさえ思える。また特にヴァンパイアに奴隷として隔離されていたライカン達が逃げ、その後彼らがヴァンパイアに猛攻撃を仕掛ける戦闘シーンはまるで『ロード・オブ・ザ・リング』を連想させる。
『アンダーワールド』で、ルシアンはスコット・スピードマン扮するマイケルを噛み彼をライカンへと変身させた。それでもセリーンとマイケルは互いに愛し合い、ルシアンが切に願った種族を超えた愛は、1000年以上も後にその2人によって達成される。運命とは実に皮肉なものだ。わたしたちは『アンダーワールド:ビギンズ』によって闇の世界に生きるヴァンパイアとライカンの歴史を知ることで、その後に続くシリーズ2作品に登場するキャラクター達に対しより感情移入する事が出来るだろう。本作はシリーズのファンには必須の作品だ。
(岡本太陽)