アレキサンドリア - 樺沢 紫苑

キリスト教やユダヤ教についてある程度の知識がある人たちにとっては、相当に引き込まれる作品であるはずだ。(点数 90点)


(C)2009 MOD Producciones,S.L. ALL Rights Reserved.

映画『アレクサンドリア』が素晴らしかった。

4世紀末のエジプト、アレキサンドリア。
そこは、アレキサンドリア図書館で知られるように、当時の世界の学問の中心的な場所であった。

そこで弟子たちに天文学を教える才色兼備の女性天文学者ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)。
彼女を中心に時代の節目の大変革が見事に描れる。

エジプト神、キリスト教、ユダヤ教との宗教的対立にローマ帝国の政治的対立がからみ、四つ巴のの覇権争いが迫力のある、スペクタクル映像とともに、スリリングに展開する。

当時の街並みを再現したCGはどこがCGかせわからなほどだし、暴動シーンなどもよく撮れている。

史劇スペクタクル好きの私としては、見逃さずに「きちんと劇場で見られて良かった」思う。。

イエスの誕生とキリスト教の広がり。
ユダヤ人の離散(ディアスポラ)。
世界国家ローマ帝国の衰退。
この時代の中近東の歴史と宗教は、私の興味あるテーマの一つである。

キリスト教はなぜ世界宗教になっていったか。
ユダヤ人はなぜ世界に離散することになったか。
偉大なエジプト文明は衰退し、なぜ失われてしまったのか。
世界を席巻したローマ帝国が、なぜキリスト教を採用したのか。

知識としては、これらの質問に答えることは容易だが、『アレクサンドリア』を見ると、こうした難しい歴史と宗教のターニングポイントが、実に感情的に腑に落ちる形で理解できた。

奴隷や貧しい人達にとって「神のもと人間は「平等」である、という思想は実に受け入れやすかっただろう。

身分や貧富の格差が歴然としていた時代だからこそ、そうした不平、不満がキリスト教への信仰という形をとって、一気に吹き出し、ローマ帝国をものみ込んでしまうわけだ。

とまあ話は難しくなったが、こうした複雑な話を、ヒュパティアという一人の女性の生涯を描きながら、時に恋愛関係などもからめながら、ドラマティックに、それでいてわかりやすく描いている点が、映画的にもうまいのだ。

この映画は、事実を下敷きにしている。
ヒュパティアという女性は実在し、アレキサンドリア図書館の焼失も事実である。

しかし、4世紀末の出来事。
大枠については史実でありながら、話のディテールは全て映画的想像で埋められている。

しかし、その辺のフィクションの部分が「さもありなん」という感じで実にうまい。

事実をより鮮明にするためにフィクションを使う。
まさに、映画的醍醐味、そのものではないか。

宗教や科学は、人間の救いにはなるのか、という非常に重いテーマが話の根底に流れているので、映画を見終わった後の重厚感が違う。

映画について語りたくなるし、この映画の歴史的、宗教的背景についても、改めて勉強したくなる。

『アレキサンドリア』は、間違いなく傑作だと思うが、ただ一つ注意すべきは、この当時の歴史的、そして宗教的背景をある程度理解していないと、深い意味で全く楽しめないことだろう。

レビューサイトなどを見ても評価は低いのはそのためだ。
ということで、あまり宗教や世界史に興味のない人はこの映画を見てもよくわからないかもしれないが、キリスト教やユダヤ教についてある程度の知識がある人たちにとっては、相当に引き込まれる作品であるはずだ。

樺沢 紫苑

【おすすめサイト】