疑心暗鬼の中で言葉は鋭い刃となり、拳銃よりずっと強力に、人間を動かす武器になりうる恐ろしさをこの作品は教えてくれる。 (点数 70点)
(C) CINEMANX FILMS TWO LIMITED 2009
2人の犯罪者と1人の被害者、用意周到・完璧に練られた計画がわずか
なミスが原因でほころび始めるとき、3人の胸に秘めた企みが暴走する。
映画は誘拐犯と人質の3人のみで構成され、ほとんど会話だけで進行す
る。秘密と嘘そして罠、言葉という毒が登場人物の心に広がり、蝕ん
でいく様子が非常にリアルだ。若い犯人の苛立ちを“トイレの水に流
れない薬莢”で表現するあたり、小道具の使い方も洗練されている。
ダニーとヴィックは金持ちの娘・アリスをさらいアジトに拘禁、写真
入り脅迫状をアリスの父に送る。その後、ヴィックが外出中、ダニー
は覆面をはずしてアリスに正体をさらす。ふたりは恋人同士だった。
怖い思いをさせられたとダニーをなじるアリス。ヴィックを騙すため
に仕方なかった、カネを手に入れた後一緒に逃げるつもりだったと言
い訳するダニー。そこに戻ってきたヴィックはダニーの裏切りに感づ
き、ダニーもまたヴィックに気付かれたことを察する。さらにアリス
は男2人がお互いに疑いの目を向けるように仕向ける。それぞれが相手
の疑念を払拭するために“愛”を口にする。だが、強調するほど安っ
ぽく聞こえるあたり、“愛”などはしょせんエゴに過ぎないと皮肉っ
ている。
誰を信じていいのか、何が真実なのか、疑心暗鬼の中で言葉は鋭い刃
となり、拳銃よりずっと強力に、人間を動かす武器になりうる恐ろし
さをこの作品は教えてくれる。
(福本次郎)