アリス・イン・ワンダーランド - 小梶勝男

◆ティム・バートンが3Dで描く「不思議の国のアリス」の後日譚。独特の映像世界はさすがだが、ロールプレイングゲームのような話が理に落ちすぎている(78点)

 試写に行きそびれ、近くのシネコンで見た。日本語吹き替え版、3D吹き替え版、3D字幕版の3パターンが上映されていたが、字幕版はちょうどお昼とか、遅い回とか、鑑賞しにくい時間帯だけ。専ら子供向けの作品というわけではないのに、メーンは吹き替えだった。「シャッターアイランド」がきっかけで、吹き替えの時代が本格的にやってくると言われているが、3D作品に限って言えば、すでに上映は吹き替えが中心になってしまったようだ。

 ハリウッド映画では「声の出演」に豪華スターを起用することが多く、本作でもアラン・リックマンやクリストファー・リーが声優として出演している。吹き替えが残念なのは、映像に集中出来る一方、そうした「声の出演」を楽しめないことだ。吹き替えでは深田恭子が「白の女王」の声を演じているが、見ている間はまるで気づかなかった。また、原作同様、セリフには様々な言葉遊びが駆使されている。それも魅力の一つだが、日本語にするのは大変だったろう。これを字幕で見るのは結構きついと思う。吹き替えでは言葉遊びもストレスなく楽しめた。

 ルイス・キャロル原作の「不思議の国のアリス」の物語から、13年後、19歳になったアリス(ミア・ワシコウスカ)が主人公だ。以前の冒険は夢だったと思いこみ、すっかり忘れている。屋外の舞踏会で貴族にプロポーズされ、即答出来なかったアリスは、その場を逃げ出して森の中の穴に落ちる。そこはかつての「不思議の国」(アンダーランド=ワンダーランド)だった。

 アリスを子供ではなく、19歳の女性にしたため、物語全体が一種のビルドゥングスロマンになっている。アリスは貴族からのプロポーズで自分の人生の選択を迫られるが、ワンダーランドでも「ある選択」を迫られる。子供から大人になるとき、若者は常に選択を迫られる。アリスは子供時代のワンダーランドをもう一度訪れ、「選択」をすることで、自立した女性になろうとするのである。成長物語にしたことで、話はとても分かりやすくなったが、原作のファンはそこが気に入らないかも知れない。アリスの体が大きくなったり、小さくなったりするのも、本作では様々な体験を経てちょうどいいサイズの自分自身を知る、つまり大人になることの意味になっている。剣を持ってアリスが戦うラストまで、まるでよくあるロールプレイングゲームだ。原作がどこかとりとめのない、ある意味、難解なストーリーであるのに対し、とても分かりやすいけれども、つまらない話になってしまっている。

 だが、映像はさすがバートン。凝りに凝っている。実写にアニメーション、CG、モーション・キャプチャーなどを組み合わせ、巨大なキノコや奇妙な植物が生えた森、赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)の全てがハートマークで作られた宮殿、服を着たカエルやウサギ、ヤマネ、自由に姿を消すチェシャ猫、パイプを吸う芋虫、不気味な双子など、「アリス」の不気味でユーモラスな世界が、バートンの趣味に合わせて完璧に描かれている。マッドハッター(ジョニー・デップ)の巨大な目、赤の女王の巨大な頭、白の女王(アン・ハサウェイ)の白く輝く体など、生身の役者をCGなどで加工している部分も、実によく出来ている。最初から3Dカメラで撮影したわけではなく、2Dで撮ったものを後で3Dに変換しているが、立体効果もまずまずだった。

 「アリス」の世界を借りたバートンの3D映像博覧会としては、十分に楽しめた。100パーセントの、アリス・イン・ティム・バートンズ・ワンダーランドなのだ。映画の中で、アリスは父親に「お前はいかれている。でも、いいことを教えてあげよう。偉大な人はみんなそうなんだ」と言われる。この言葉は、バートンが自分自身に贈ったように思えてくる。本来の「アリス」の世界を味わいたいのなら、ジョン・テニエルの挿絵に近いW.W.ヤング監督版「不思議の国のアリス」(1915)をお薦めする。

小梶勝男

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