アバター - 山口拓朗

◆SFの醍醐味を十分に味わわせてくれる(90点)

 ときは22世紀。車いす生活を余儀なくされていたジェイク(サム・ワーシントン)は、事故死した双子の兄に代って、地球から5光年離れた衛星パンドラへ向かった。彼は特殊な装置を使って、人間と現地人のナヴィ族のハイブリッドであるアバター(分身)なるものへ意識をリンクし、その肉体を自由に操ることに成功した。ある日、アバターの肉体を借りて森を探索していると、ジェイクは獣のヴァイパー・ウルフに襲われそうになる。が、運よくナヴィ族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に助けられて……。

 ジェームズ・キャメロン監督が「タイタニック」(1997年)以来、12年ぶりにメガホンを取った話題作は、観客をまだ見ぬ異国の地へと導いてくれる創造性に富んだスペシャルな1本。映画メディアの、そして、SFの醍醐味を十分に味わわせてくれる実写3D仕様のエポックメイク作だ。

 3D映像に先んじて評価したいのが、舞台となる惑星パンドラの世界観とナヴィ族と呼ばれる現地人のキャラクター造形だ。パンドラには、地球にはない植物や動物、クリーチャーらが無数に生命を宿す。"エイワ"と呼ばれる意思のようなものが存在するこの世界に登場する動植物は、すべてキャメロン監督がゼロから作り上げたものだ。

 高さ300メートルにおよぶ「ホームツリー」、"エイワ"とつながる「聖なる木の精」、肉食飛行動物の「バンシー」や「レオノプリテクス」、6本足の「ダイアホース」、空中に漂う山「ハレルヤ・マウンテン」……等々、ひとつの命ある惑星をゼロから創造するのは、ドラマを作る以上にエネルギーのいる作業のはずだ。

 なぜなら、惑星はもちろん、そこに生きる動植物たちは、それぞれに"そこに存在する意味"を背負っているからだ。安直な思いつきだけで、これほど相関性の高い有機的な世界を構築することは不可能だ。この惑星パンドラを訪れるという観客の疑似体験は、人によっては、写真集で見慣れた世界遺産の地を訪れる以上に心躍るものになるかもしれない。「風の谷のナウシカ」の腐界の森やオウムに出会ったときと同じ衝撃が、この映画にはある。

 そうした世界観に深みと広がりを与えているのが、驚くべき3D映像だ。これまでの3Dというのは、どちらかといえば、3Dであることをフックにした「モノが飛び出しておもしろいでしょう」的、言ってしまえば色モノ的な傾向が強かったが、この映画では、世界観やキャラクターをより生き生きと際立たせるために使われている。つまり、3Dであることの特殊さというよりは、極めて自然に使われた3D映像――しょせん平面にすぎないスクリーンという壁との高い親和性を証明した点――にこそ、本作「アバター」における3Dの真価があるのではないだろうか。

 ただし、3D映像を見るために専用の3D眼鏡をかけなくてはいけないのは、映画というエンタテインメントにとって進歩とはいえないだろう(むしろ退歩)。とくに私のような眼鏡族は、眼鏡のダブルがけを強いられるわけだ。眼球とスクリーンの間に挟まれた2枚のレンズ。そのストレスを喜ぶ者はいないだろう。あるいは、レーシック業者の入れ知恵か何かか。さらに言えば、鑑賞後に持ち帰らされた3D眼鏡の使い道のなさは、地球環境という次元においても問題アリだ。いずれにせよ、真の意味での映像革命は、3D眼鏡なしで3Dが味わえるときだと、私は信じて疑わない。

 さて、物語のほうは、ある特定の人種(先住民)を力ずくで排除しようとする地球軍の傍若無人ぶりと、そうした動きとは逆に、大地が宿す意思や動植物との絆を大切にし、常に自然への敬意を忘れないナヴィ族の清廉さを対比させることで、「共生」という大きなメッセージを投げかける。目新しいテーマとはいえないが、今もなお紛争や環境破壊という問題を克服していない人類にとっては普遍的、今日的なテーマであり、ゆえに、心に響くものも大きい。

 「共生」という太い幹から伸びる枝葉も深淵だ。例えば、アバターを介して肉体と意識の観念を分離する設定には、「肉体至上」な現代社会に対するアンチテーゼともいえる示唆を読み取ることができる。「ロマンチシズムあふれる恋」や「センチメンタルな決断」というあたりは賛否を呼びそうだが、そこに見られるキャメロン監督らしさをあえて否定する必要はないだろう。終盤にくり広げられる壮絶な戦闘アクションを含めて、娯楽作品としてのサービス精神も旺盛そのもの。無尽蔵にイマジネーションを含んだ世界観に鑑みるに、本作「アバター」は多くの熱狂的なファン(=アバラー?)を生み出す可能性を秘めている。

 いずれにせよ、一見、いや、二度でも三度でも好きなだけ鑑賞して、この作品が内包するソウルフルな意識にリンクすることをオススメする。きっと"肉体(現実)"という名の呪縛から、あなたを解き放ってくれるはずだから。

山口拓朗

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