アドリブ・ナイト - 福本次郎

誰もが他人には関心を示さない、大都会の孤独。自分を必要としてくれる人間は体目当ての男だけ。断ち切れない地縁血縁の濃いつながりと、そこから逃げ出してしまった後悔。そんなヒロインの気持を繊細なタッチで描写する。(70点)

 誰もが他人には関心を示さない、大都会の孤独。こんなに大勢が広場を交差するのに、自分を必要としてくれる人間は体目当ての男だけ。ひとり暮らしに憧れてソウルに出てきたのに、華やかな生活とは程遠い現実。そんな若い女の心に強引に入り込む田舎から来た男たち。いまだに大家族主義の残る地方を舞台に、人間同士のふれあいを通じて女は優しい気持を取り戻す。逃げ出したくても逃げ出せない地縁血縁の濃いつながりと、そこから逃げ出してしまった後悔。そんなヒロインの気持を繊細なタッチで描写する。

 街で突然2人の若者に声をかけられた女。男たちは死にかけている父親に、家出した娘・ミョンウンをひと目会わせたいと願い、ミョウンウンに似た彼女に代役を頼む。そして車に乗って父親の元に向かうと、そこでは肉親だけでなく村の人々も待ち構えていた。

 意識も朦朧としている父親に最期の心残りを取り除いてやりたい。そんな一族の熱い想いだけでなく、一方で集まった親族隣人同士で金銭トラブルや恋愛関係なども明らかになっていく過程が、湿っぽくなる寸前で映画を救う。その中で純粋にミョンウン父娘を心配している若者たちの熱意にうたれて、女は死にかけた男の手を握る。他愛ない会話やちょっとした思いやり、それこそが彼女が無意識に求めていた他者とのつながり。一族の言いたいことを言い合いながらも固い絆で結ばれている様子が、やがて女の心にも家族への憧憬を思い出せる。その微妙な変化をハン・ヒョジュが視線の移動だけで見事に演じる。

 やがて父が息を引き取ったその瞬間、女は自発的に彼の手を取り耳元で囁く。その前にミョンウンの靴下に履き替えることで彼女になりきる決意をしたのだろう。もはや誰も反対することなく、父は穏やかな死に顔を見せる。ひとり暮らし、寂しさを紛らわせるために援助交際を繰り返す女にとって、血縁の暖かさが身にしみたに違いない。一人ぼっちでいるより最後に頼れる家族や友人がいることのすばらしさ、そんな当たり前のことを押し付けがましくなく伝えるスタンスが心地よかった。

福本次郎

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