◆押井守監督のマニアックな世界だが、3人の女優の魅力は楽しめる(66点)
押井守監督の世界は非常にマニアックで、なかなか理解が難しい。押井作品には熱狂的なファンがいる一方で、今ひとつメジャーになりきれないのも、そのせいだろう。「スカイ・クロラ」ではその殻を破って、より広い観客層に向かって物語を紡いでいたが、本作では再び自らの世界に閉じこもってしまった印象がある。
仮想空間〈アヴァロン(f)〉内では、荒野に出没するモンスター「スナクジラ」を仕留めるゲームに、3人の女と1人の男が参加していた。迷彩戦闘機を操るスナイパー・グレイ(黒木メイサ)、カラスに変身する魔導士ルシファ(菊地凜子)、アサルトライフルを抱えた女戦士カーネル(佐伯日菜子)、20ミリ対戦車砲を装備するイェーガー(藤木義勝)だ。ライバルの4人は、大物「マダラスナクジラ」を倒すため、手を組むことになる。
ストーリーは極めて単純なのだが、押井監督の世界観に入ることが出来ないと、「ゲーム」を続ける4人を追うのがキツイかも知れない。そもそも、なぜ現実でなくてゲームなのかは、「アヴァロン」(2001)を見ていないとよく分からないだろうし、「真・女立喰師列伝」(2007)や「斬?KILL?」(2008)とも繋がっている世界なので、初めて本作だけを見る観客は戸惑いを感じるだろう。
本当はそんなことは関係なく、3人の女優の格好良さだけを見ればいいのだ。体に密着した戦闘スーツはボディラインを強調してとてもいい。黒木メイサの空手アクション、菊地凜子の変な踊り、佐伯日菜子のジャンル女優としての佇まいと、3者3様の魅力がある。その一方で、繰り返し登場する二宮金次郎像などはやっぱり分かりにくい。スタイリッシュな女性アクションにはならないのが押井作品だ。
3人の女優の魅力をもっと強調し、エンタティンメントにする方法もあったと思う。だが、そうはいかない。良くも悪くも押井ワールドは難解さが魅力の一つだ。
CGと実写の融合では「アヴァロン」の時は先鋭的だったが、今やジェームズ・キャメロンの「アバター」の時代。残念ながら本作のレベルではチープに見えてしまう。それでもところどころ、グッと来る描写がある。例えば黒木メイサが弾丸を取り換えるときの動きなど、実に細かいところなのだが。
押井監督にとって、これは習作の一つなのだろう。押井ワールドにはまだまだ底知れない魅力がある。追いかけるのはとても楽しい。その楽しさを多くの人と分かち合いたい。
(小梶勝男)