アキレスと亀 - 福本次郎

男っぷりと義理人情に厚い性格で名をはせた清水の次郎長が、実は女房を一筋に思い続けていたという純情。映画は次郎長と子分たちの交流に妻との愛、チャンバラを盛り込むが、どのエピソードも中途半端でつながりが見えてこない。(70点)

© 2008『アキレスと亀』製作委員会

 どれだけ他人から才能を否定されても芸術家であることを信じて疑わない男と、彼に盲目的に従う妻。愛や美の喜び、不正に対する怒り、別れや喪失の哀しみ、生きる楽しさといった感情を強烈に発露したいという欲望があるわけでもなく、ただなんとなく小器用に絵がうまいというだけ。そこには独創性やメッセージ性はなく模倣や通俗の範疇に留まっているのに、本人は至ってマジメなのだ。子どものころからいっこうに成長しない主人公の一貫したスタイルは、ある種の神々しさすらうかがえる。

 絵が好きな真知寿は孤児となるが、成長しても画家になる夢を持ち続けている。美術学校に通う傍ら印刷工場で働いているときに幸子という女と親しくなり結婚、彼女は真知寿の唯一の理解者で、彼の創作活動に献身的に協力する。

 両親は自殺、幼なじみも事故死、美術学校の友人も事故死や自殺、さらに娘まで変死する。真知寿の周りには「死」が満ち溢れているせいか、生に執着がなさそうだ。命がけで何かを表現しろと画商にいわれても、自分の命すら軽く見ている真知寿にとってその意味がほとんど理解できなかったのではないだろうか。描くこと以外に生きている価値を見出せない、しかし彼の作品には値打ちはない。価値ある結果を生み出せない人生に未練はないのだが、死ぬほど絶望しているわけでもない。そんな不器用な生き方しかできない男の哀切が、抑えた筆致で淡々と語られる。

 さっぱり世間から認められることのない真知寿の心は最後まで爆発しない。それは幸子というよき伴侶を得たことに尽きる。どれほど貧乏でも真知寿に愛想を尽かすことはなく、むしろ彼の発想を楽しみ、面白がって付き合っている。グレた娘よりも夫の心配をし、真知寿が好きなのは絵だけと分っていても、彼に付き添ってゆく。アートという見果てぬ夢に追いつけなかった代わりに幸子を手に入れたことで、真知寿の後半生は満たされたものになったに違いない。

福本次郎

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