古典SFの3度目のリメーク。無人の大都市NYのビジュアルが素晴らしいが、終盤の展開は物足りない。(60点)
西暦2012年。ウィルス感染で人類が滅び、唯一人生き残った科学者ネビルは、廃墟と化したNYから生存者に向けて無線でメッセージを送り続けていた。だが応答はない。夜行性の謎の生命体と戦い、想像を絶する孤独に耐えるネビルだったが…。
困った映画だ。3回目のリメークだが、一応、オチがあるので、ストーリーは詳しくは語れない。主人公ネビルは、ウィルスのワクチンを開発する軍所属の学者で、科学的知識と戦闘能力を兼ね備えた人物だ。彼は、絶望的な状況の中で、殺人ウィルスの感染者が変異した闇の生物“ダーク・シーカーズ”を治療するための薬の研究を、たった一人で続けている。ネビルは、ワクチンを開発できず人類を救えなかった罪悪感を抱えているのだ。そんな正義感あふれる主人公を演じるのが、ウィル・スミスである。旧作と最も違う点は、このネビルの人間描写が丁寧なことだ。
地球上でひとりぼっち。もし自分がそうなったら…と想像するだけで怖い。だが、このモチーフの抜群の面白さに比べ、後半の展開に魅力が薄いのだ。地球規模の災厄の後なのに、ライフラインがバッチリ整っていることへのツッコミはこの際止めておこう。物語は、はたして生存者はいるのか?というミステリアスな要素より、アクション系サバイバルのテイストの方が濃くなってしまっている。ネビル一人に免疫がある理由をもっと明確にして、そこに謎を込めることも出来ただろうに。そのサバイバル・バトルの相手、ダーク・シーカーズは、旧作では、出来損ないのゾンビが集まって作ったKKK風カルト集団のようで苦笑したものだが、今回は余計な言葉を発せず凶暴さと不気味さをグレードアップ。宗教臭さが無くなっているのはありがたい。とは言え、主人公が人類再生の鍵と信じる闇の生物に、ただ敵という役割だけを与えるのは、いささか片手落ちだ。ラストの落とし前も、方法は違うが旧作と同じスピリットではないか。せっかく21世紀にリメークするのだ。もっと大胆な新解釈があってもいいはずである。大風呂敷を広げた割に、オチはこれ?と文句のひとつも言いたくなった。これでは、来日時にネタバレしたウィル・スミスを責める気にもなれない。
不満ばかり並べてしまったが、見所がないのかと言えば、決してそんなことはない。まず、主演のウィル・スミスの硬軟使い分けた演技が堪能できるのが嬉しい。主人公は唯一の相棒の愛犬と車に乗り、無人で荒れ果てた街を行く。食料となる鹿を追い、公園で野菜を育て、誰もいない店でマネキンに話しかけながらDVDを“借りる”。ほとんど一人芝居に近い演技をこなすスミスの上手さを改めて確認できる。ヒーローが似合う役者だが、SFやアクション、ラブコメディから人間ドラマまで、彼の守備範囲は広いのだ。アスリートのようにたくましいウィルが、打ち捨てられた軍用機の翼の上でゴルフをする様子はちょっと絵になる光景である。もう一つの見所は、廃墟になったNYのユニークなビジュアルだ。虚無感を漂わせつつ、街全体が自然に飲み込まれたように作り込んだ造形美が何ともクールで素晴らしい。地球の荒廃が宇宙からの異生物などではなく、人間自らがまいた種で引き起こされた皮肉。その上、人の気配がなく、原始に立ち返ったような大都会の光景が、映画の中で最も強い魅力を放つとは…。やっぱりこれは困った映画である。
(渡まち子)