アイデンティティー - 前田有一

最後の1分まで気が抜けない抜群の面白さ(75点)

 仰天な結末が話題の、ミステリドラマ。

 あなたがミステリファンならば、『アイデンティティー』は最高の映画だ。この映画は、ロジカルに推理を進めながら見ている観客が、最後に鮮やかに騙されて、完全敗北を味わう快感を得られる映画である。(騙される快感こそ、ミステリファンがもっとも期待する要素でしょう?)

 かくいう私も、画面の端々の怪しげなヒントを見逃さず、論理的に推理しながら、結末を先に言い当ててやろうと気合を入れて鑑賞したくちである。そして後日このサイトで、「ミステリのクセに結末がバレバレだぜ」と得意満面で報告してやろうというわけである。その勇姿を想像して、一人ワクワクしていた。

 結果、コロっと騙された。自分、バカ過ぎ。無論、本人はロジカルに推理を進めていったつもりだったのだが、完全にミスディレクションに引っかかった。製作者にとって、こんなにちょろい観客はきっといなかったであろう。

 しかしながら、これぞ騙される快感。敵ながらアッパレ、である。ラストで結末が明かされる瞬間のカタルシスは最高だ。自分の推理の稚拙さを恥じ、それでもなんだか嬉しいこの矛盾。「いや、途中までは良く解いたよ、あと少しだったじゃないか」と自分を慰めるときのなんともいえぬ自虐的な気分。ああ、もしやミステリファンってマゾなのか?!

 『アイデンティティー』は、ミステリとして見ると、なかなかフェアで、きちんと観客の前に最初から真相のヒントが提示されている。個人的には、1つ目のトリックについてのヒントがもうちょい大胆にちりばめらていれば、なお良かったかなと思うが。

 ネタバレになりそうなので、詳しくは書けないのだが、演出面でも効果的なアイデアを出している。こちらを思考停止させるあるシーンのせいで、観客が大きなヒントを見逃すようになっている。

 ミステリとしては、相当難易度が高いと思われるが、だからこそ敗北の快感を味わえる。ラスト1分まで気が抜けないどんでん返しの嵐。この快感を味わって、皆さんもマゾになりませんか? ……ん?

前田有一

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