アイガー北壁 - 佐々木貴之

◆壮大なスケールで魅せつけ、緊迫感を漂わせたスリリングな描写が魅力的(75点)

 アルプス登攀史上最大の事件と呼ばれた実話をフィリップ・シュテルツェルが映像化した入魂のアドベンチャー・ドラマ。

 ベルリン五輪開幕直前の1936年ドイツ。ナチス政権は、スイスの難所で多くのクライマーの挑戦を阻んできたことから“殺人の壁”と呼称されるようになったアイガー北壁へのドイツ人初登頂を最大目標に掲げ、成功者にはオリンピックで金メダルが授与できることを決定した。トニー(ベンノ・フユルマン) とアンディ(フロリアン・ルーカス)の山岳猟兵コンビとヴィリー(ジーモン・シュヴァルツ)とエディ(ゲオルク・フリードリヒ)のオーストリア人登山家コンビの四人がこれに挑戦するが……。

 実話ということもあってリアリティーを追求することに拘った本作。当然、メインである登攀のシーンはウソっぽさをまったく感じさせないほど忠実に再現されており、説得力があると言い切れるほどだ。タダでさえ危険極まりない山でロケを敢行し、見事に完成させたことにはスゴいとしか言いようがなく、同時に「よくここまで出来た!!」という驚きもあれば、役者やスタッフたちが相当な苦労を積み重ねてきたことも薄々感じられた。

 悪天候による猛吹雪に吹き荒れる強風、雪崩、落石が四人を苦しめるのが見所の一つであり、かなり印象深い。自然の恐ろしい一面がじっくりと伝わり、この山が如何に恐ろし過ぎる山であるかということにも納得が出来る。そして、何よりも四人の過酷かつ精神的にも肉体的にも厳しい状況に置かれていることをしっかりと浮き彫りにしており、痛々しさが感じられる。

 トニーとアンディの幼馴染であるベルリン新聞社の女性記者ルイーゼ(ヨハンナ・ヴォカレク)も素晴らしい。四人の挑戦を見守る彼女の存在がラストの悲劇を盛り立て、愛を感じさせるドラマへと仕立て上げた。

 本作は男の激闘ドラマでもある。二組がライバル心を露にしていがみ合うが、後に仄かな友情が芽生えて協力し合ったりといったシーンは、男心をくすぐらせる。

 壮大なスケールで魅せつけ、緊迫感を漂わせたスリリングな描写が魅力的だと言えるが、単にこれらを楽しむというモノではない。死と隣り合わせの挑戦の壮絶さと大自然が持つ厳しさと恐ろしさを存分に味わえるドラマである。

佐々木貴之

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