終盤は見所が多い(70点)
何だかドキッとする響きのタイトルだが、出そうとしているものはお金だ。この映画には、本来、お金というのは何かの目的のためのツールであるべきなのに、いつしかお金そのものが目的になっている世の中への素朴な疑問がある。と同時に、目的のための大金を手にしたら、それがその人の幸せにつながるのかとも問いかける。東京から故郷の函館に突然もどってきた摩耶は、再会した高校時代の同級生たちの夢や希望を叶えるために、大金を差し出す。陸上選手としての再起、世界の市電めぐり、魚類の研究資金などの夢はかなうのか。そして、大金を提供する摩耶の真意とは。
「(ハル)」以来13年ぶりのオリジナル脚本となる本作には、森田芳光監督の原点ともいえる、間(マ)の魅力が満載だ。森田監督の最高傑作は「家族ゲーム」だと疑わないが、お金の使い方を描く本作は、あえて説明的な要素を省いた演出や、謎めいた主人公のクールなたたずまいなど、共通項が多い。お金の“量と質”とは、これまた現実的かつ哲学的なテーマだが、語り口はあくまでもサラリとしたものだ。どうやって稼いだかもわからない大金をポンと出されて、友人たちがあっさり受け取る様子に唖然とするが、本題はそこではなく、摩耶が“投資”したその大金が、手にした者の人生をどう変えるかに真意がある。もちろん、お金イコール幸福と安直につながるはずはなく、結果は概ね予想はつくのだが。それでも冷静な結論に達するものやビックリの秘密を隠したものがいて、終盤は見所が多い。人を幸せにしようとするヒロインの行為も、ことお金となると単純な善意とはなりえないのだ。地味な服装で、ちっとも幸福そうに見えない摩耶が一人でしりとりをする場面が印象的。そんな寂しげな彼女に、最後に訪れる奇跡には、人生に必要な信念や希望が感じられ、幸せの意味が少し分かった気がしてくる。
(渡まち子)