わたし出すわ - 福本次郎

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 若き日の友人の前に突然現れ、彼らの夢の実現のためにカネを出すという女。前向きな目標を持つ者に幸運を運び、使い方を知らない者には不幸の影が忍び寄る。カネの魅力と魔力を同時にふりまきながら彼女はただ事の成り行きを見守るだけ。映画はヒロインの目を通し、人間の謙虚さと愚かさを抑制のきいたタッチであぶりだす。悲喜こもごもの結末の数々で、カネがもたらす可能性と人とのかかわりあいの難しさを寓意たっぷりに描く。

 東京から函館に戻った摩耶は高校の同級生の消息を追う。市電の車掌をしている道上の「世界中の路面電車を見る」ための費用や、長距離ランナーの川上の足の手術代、さくらの夫の必要経費、保利のヘッドハンティングの妨害、さやの生活費まで惜しげもなくカネを差し出す。

 摩耶は株取引でひと財産築いたらしい。しかし、化粧気はなく住居も質素で自分の身だしなみなみにもほとんどカネをかけず、学校で声を掛けてくれた友人のためにだけカネを使おうとする。その目的は恩返しのようでもあり復讐のようでもあるが、カネを媒介に話をする口実を設けているだけにも見える。昏睡状態で入院中の母と会話を試みてもいつも一方通行、その寂しさを紛らわせたいだけなのか。おそらく摩耶は腹を割って話せる家族や友人がひとりもおらず、カネをで相手の心を開いても己が抱える寂しさやつらさは決して口にしない。本音で語り合いたいと思って友人に近付くのに、やっぱり心を開けない不器用な摩耶の感情が痛いほどリアルだ。

 そして、母の病室での1人しりとりが、摩耶の本心を知るのは摩耶の中にいるもうひとりの摩耶だけであることを暗喩する。摩耶はそうやって孤独を癒してきたのだろう。カネを与えることで他人の人生に影響を与えたのに、結局彼女自身は変わらなかったという皮肉が効いている。いや「ありがとう」と言われたことで少しは満足を得られたのかもしれないが。ただ、物語自体があまりにも茫洋としていて、教訓めいたことも説教臭さもない代わりに、何が言いたいのかもよくわからなかったことも事実だ。

福本次郎

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