わたし出すわ - 小梶勝男

◆同級生に大金を次々と差し出す女の物語。アイデアはとてもいいが、話がダイナミックに展開していかない(68点)

 森田芳光監督の迷走は続いている。

 「家族ゲーム」「それから」のような名作から、「模倣犯」のような迷作まで、振り幅は大きいが、常に意欲的な作品に挑戦する森田監督。最近は、「サウスバウンド」「椿三十郎」と、試みや狙いは面白いものの、成功とはいい難い作品が続いた。

 今回も、題材は非常に興味深い。東京から北海道・函館に戻ってきた女性(小雪)が、高校時代の同級生たち5人に会って、それぞれの夢をかなえるため、次々に大金を差し出すのである。市電の運転手(井坂俊哉)には、世界の路面電車巡りをする資金。練習中に故障したマラソンランナー(山中崇)には、米国での手術とリハビリ代。養魚試験場の研究員(小澤征悦)には、魚が反応して送る信号を人為的に作る研究の資金。社長だった夫を亡くした文無しホステス(黒谷友香)には5個の金塊。そして、欲しいものがないという主婦(小池栄子)には、小型の冷蔵庫と、夫が「箱庭協会」の会長となるための権利金を差し出す。

 欲しい金があったら、夢は叶うのか。そして、金を差し出す女の目的とは。実に惹きつけられる話だ。アイデアはとてもいい。冒頭から、興味深々で見始めた。北海道・函館の風景も良かった。一瞬にして街の雰囲気を描き出すキャメラは、さすが森田監督だと思った。

 しかしその後、話がダイナミックに展開していかないのである。それどころか、疑問が膨れ上がっていく。同級生に大金を差し出されて、動揺しないのか。悩んだり、疑ったり、嫉妬したり、断ったり、もっと引き出そうとしたり、金によって人間が変わっていくのが面白いのに、5人ともあっさりと受け取ってしまう。変わったのは、大金を手に入れてホストに入れあげる市電の運転手の妻だけ。あとは意外なほど淡々と大金を受け入れ、ドラマチックな反応がない。拍子抜けしてしまった。代わりに仲介屋(仲村トオル)が出てきたりして、話が妙な方に向かってしまう。

 派手な喜劇にはせず、淡々とドラマを描きたいという監督の狙いは分かるが、ただ主人公と友人たちが函館の町をうろうろとして、延々と話をしているだけのような印象で、どうも乗れなかった。こういうあえてドラマチックな展開を外した不思議な感覚はある意味、「の・ようなもの」や「シブがき隊 ボーイズ&ガールズ」のころからの森田監督の持ち味なのだが、このストーリーには合っていないと思う。

 主演の小雪はミステリアスな役柄で、最後までなぜこれほど大金持ちなのか、何の狙いがあって同級生たちに大金を差し出すのか、どうして故郷に戻ってきたのか、今ひとつはっきりとしない。理由などどうでもいいほどの存在感は出せてはいなかった。良かったのは黒谷友香。欲望に身を任せて滅んでいく女を生々しく演じていた。

 今回も狙いは良かったが、やっぱり成功とは言い難い。しかし、森田監督の才気は十分に感じた。いずれ、自身の名作群を超える傑作を作ってくれると信じている。

小梶勝男

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