◆美術館改築計画は市民団体の抵抗で頓挫、問題は解決されないまま先送りが決定され、さらに資金難や指導者の辞任にまで発展する。カメラはそんな予想外の展開にも“それもまた人間の営み”とばかりに客観的にレンズを向ける。(50点)
国立の美術館=市民の税金で賄われている以上、この映画を通じて美術館側は改修工事を公開して再オープン時の華々しい広報活動に利用しようと目論んでいたのだろう。監督もまた、さまざまな立場の人々がひとつの目標に向かって力を合わせ、難題を克服する過程を通じて理性の勝利を描きたかったに違いない。しかし、現実は予定調和的なハッピーエンドに向かってくれるほど甘くはない。計画は市民団体の抵抗で頓挫、問題は解決されないまま先送りだけが決定され、さらに資金難や指導者の辞任にまで発展する。カメラはそんな予想外の展開にも“それもまた人間の営み”とばかりに客観的にレンズを向ける。
アムステルダム国立美術館が大規模改装に入る。床、壁にドリルで穴をあけ、重機で崩していく。館長のデ・レーウは先頭に立って指揮をとるが、美術館の中を貫く道路を閉鎖したことから地元のサイクリスト団体の強硬な抗議にあう。
何かに手を付けると、必ず反対者が出る。彼らに対して粘り強い説得をしても結局らちが明かない。新しい建物のデザインについてもまとまらず、意見は堂々巡り。誰もが自分の考えを口ににしなければ気が済まないオランダ流の民主主義、建築家が「これは民主主義の悪用だ」とさじを投げるシーンが象徴的だ。独裁者の台頭を許さない国民性ゆえなのだが、それが逆に強力なリーダーの不在を浮き彫りにしていく。大掛かりなプロジェクトを進めるには、やはりブルドーザーのような剛腕が必要なことをこの作品は思い出させてくれる。
リニューアルに関わる紆余曲折と並行して、学芸員たちのアートへの情熱、名建築と言われた元の建物や内装への警備員や装飾家の愛なども語られ、美術館に携わる人々の様々な思いが交差する。そんな中、入札の失敗、館長の退任などますます完成は遠のいていく。美術品という目に見える部分しか普段注目されない美術館も、当然運営しているのは生身の人間。彼らがむき出しの感情で己の主張を繰り返す姿は、そこに展示されているアートよりも人間の本質に迫っている。その皮肉な結末こそがドキュメンタリーとしての面白さを加速させていた。
(福本次郎)