◆ベテラン俳優陣による熟練した演技、落ちついた演出、そしてテンポのよい笑いとほろりとさせる人情の機微が細部にまでよく練られた脚本。しっかりとツボを心得た仕事をし、軽妙な語り口の中に涙を誘う手管は映画の職人芸だ。(70点)
ベテラン俳優陣による熟練した演技、腰の据わった落ちついた演出、そしてテンポのよい笑いとほろりとさせる人情の機微が細部にまでよく練られた脚本。キャストもスタッフもしっかりとツボを心得た仕事をし、軽妙な語り口の中に涙を誘う手管はまさに映画の職人芸だ。ひとつ間違えると大仰なドタバタ喜劇になりかねない古典落語のネタが絶妙のさじ加減で料理され、安心して映画に身を浸していられる。
職人の弥次さんは品川の花魁・お喜乃に惚れているが遊ぶカネはない。そんな時、お喜乃に足抜けの手伝いを頼まれ、売れない役者の喜多さんとともに彼女の故郷、沼津を目指す。しかし3人は早くも戸塚宿で散財し、一文なしになってしまう。
ニセ小指をお喜乃に売る弥次さん、その指で客からカネをむしりとるお喜乃、そしてへぼ役者の喜多さん。特に弥次さんは、金持ちやヤクザは騙しても根は善人で、妻子を亡くしたことに心を痛めている。江戸っ子の気風のよさと正義感の強さ、その一方でセコかったり純情だったりと、いかにも小噺に出てくる江戸の町人。中村勘三郎が歯切れのいい喋りでこの主人公を好演している。
その後、お喜乃はひとりで親元に帰るが、弥次喜多が追っ手のヤクザと間違われたり、心中した男女の頭蓋骨でお喜乃の葬儀をしたりと、すれ違いと勘違いがわき腹をくすぐるように感情を刺激する。そしてタイトルとなった「てれすこ」という怪魚の胡散臭い料理を食べた弥次さんはつかの間、妻子との幸せな時間を夢に見る。大坂の出来事が東海道を下るうちに尾ひれがつき、万能薬の代名詞となった内容と関係のないタイトルがここにきて主人公と結びつく。もともとが無理心中しようとした男女が見つけた魚、弥次とお喜乃の中を取り持つ「愛の妙薬」となることでこの映画にハッピーエンドをもたらすのだ。まるで噺家の十八番を聞いているような気持ちになれた。
(福本次郎)