◆パステルカラーの柔らかな色彩と、ラフスケッチのようにサラリと描かれた絵柄が魅力的(55点)
野菜をモチーフにしたユニークなアニメーションは、優しいタッチが魅力だ。舞台はNYのキッチン。芽キャベツら野菜の妖精たちは、月の光がキッチンに差し込む夜に目を覚ましては楽しく遊んでいる。月に一度の満月の夜、芽キャベツとガーリックは、お気に入りのホルンの奪い合いに。勢い余ってシンクの湖に落ちてしまった芽キャベツを引き上げると、ホルンの中には見たことがないピンク色の妖精がいた。これが冒険に満ちた特別な夜の始まりになる…。
NHKの教育テレビで人気の「やさいのようせい」の原作は「ファイナルファンタジー」のキャラクターデザイナーとして知られる天野喜孝。初めての映画版は、2Dのテレビアニメのリマスター版3話(「妖精たちの目覚め」「モルドレイス」「はっぱのそり」)と3Dのオリジナルストーリー1話から構成されている。妖精たちは、日本語にも英語にも聞こえる不思議な妖精言葉を話すのだが、字幕などなくても彼らの感情やメッセージはちゃんと伝わるのが嬉しい。明るい性格の芽キャベツ、やんちゃなガーリック、おしゃれなレタス、のんびりやの白ナスと、キャラクターもメリハリがあって良い。何より、パステルカラーの柔らかな色彩と、ラフスケッチのようにサラリと描かれた絵柄が魅力的だ。小さなピンク色の妖精を、カビのおばけ・モルドレイスの攻撃から守るために、野菜の妖精たちが力を会わせて助け合い、大切にしているホルンを犠牲にしてまで彼女を助ける。このピンクの妖精の正体が最後に明かされたとき、満月の夜の奇跡のような出来事に胸が熱くなるはずだ。ソフトな声のナレーションは原田知世。3Dの効果はごく控えめなのだが、野菜という身近なアイテムを使った愛らしいアニメには、一期一会の出会いを大切にとのメッセージが込められていて、心があたたかくなる。
(渡まち子)