ものすごくうるさくて、ありえないほど近い - 青森 学

大切な人を喪った者の悲しさが抑制された映像のなかに焼き込まれていた。(点数 88点)


(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

9.11テロで父親を亡くした少年の喪失感から再生までの過程を描いた映画なのだが、生前の父親との遊びを継続することで、最初は父親の気配を感じ取ろうとしていた少年が、父親が残したヒントを手掛かりにさまざまなニューヨークの人たちと出会って悲しみを共有し癒し合い回復していくストーリーになっている。

映画だから、という批判を差し置いてもニューヨーカーの温かい人柄というのはさまざまな文化人のコメントからも偲ぶことが出来る。岡田光世のエッセイ『ニューヨークの魔法シリーズ』を読んでいただければその気質を窺い知ることが出来るだろう。
映画はアスペルガー症候群の疑いのある少年が自分の感性に少し重荷を感じつつ、そのハードルを亡き父親の影を追ううちに乗り越えていくお話である。また、この少年の歴程がテロを経験したニューヨークの人たちと共鳴して互いに癒していく過程も同時に描かれている。そのあたりの相似的関係が映画ではうまく表現されていた。
中盤、祖母のアパートに部屋を間借りする老人がいるのだが、老人は少年と意気投合して父親の残した謎解き遊びの協力を申し出る。老人は過去に辛い体験をしたからなのか、声を喪って話すことが出来ないのだが、人付き合いに負担を感じながらも大人以上に理路の通った会話が可能な少年とのアンバランスさが映画にアクセントを与えている。
この老人が誰であるのかは明確に明かされなくても仄めかされはするのでそれを信じるしかないだろう(老人と祖母との関係を象徴するシーンがあるので少年の推理を補強してはいる)。老人も悲しみを抱え、少年の母親、少年の祖母、誰もの心にあの事件の悲しみが心の影を一層濃いものにしている。だが、誰もが少しずつではあるが心の整理をつけて前に踏み出そうとして足掻いている。少年もそれを理解しつつもそれが父親を忘れる自分を赦すようで、それがまた許せない。映画の終盤で明かされる少年の心に刻印された苦しみはやはり涙を誘わずにはいられない。そんな十字架を背負った少年でも周囲の人たちが彼に心を砕くことで、少年もこの試練を克服するようになる。”寒い国にいる人は心が温かい”という俗説を耳に挟んだことがあるが、ニューヨークは青森県弘前市とだいたい同じ緯度。凍てついた冬を知っている人は、また人のぬくもりの有り難さが身に沁みるのかも知れない。

この映画には深い悲しみが横溢しているが、それを乗り越える力が人にはあることを同時に伝えている。
映画を観終わった後、静かだが大きな感動が心を満たしてくれた。

青森 学

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