めがね - 福本次郎

◆必要なもの以外は何も持たない、必要なこと以外は何もしない。ただひたすら風景を眺めてぼーっとしている。だが、ひとりになりたくても、結局誰かとつながっていたい、そんな旅行者の心を十分に余白を取った抑えた演出で描く。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 必要なもの以外は何も持たない、必要なこと以外は何もしない。空いた時間は動かず考えず、ただひたすら風景を眺めてぼーっとしている。エメラルドグリーンの海と雲ひとつない青空の下、時間やカネや人間関係に縛られずにいる人々。だが、自由でいるようで、他人に気を使わせないように気を使っているようなぎこちなさ。ひとりになりたくても、結局誰かとつながっていたい、そんな旅行者の心を十分に余白を取った抑えた演出で描く。都会で暮らす人間には、退屈な日常に身をゆだね、忙しい人生から距離を置くにも決意と努力が必要なのだ。

 南の島にやってきたタエコは小さな民宿にやってくるが、主人のユージはタエコをほったらかしてサクラというオバサンのところに行ってしまう。サクラは毎年春になるとこの島にやってきてかき氷屋を開く謎の人物だった。

 登場人物はみな何をしている人なのか、なぜこの島に来たのか一切語らない。タエコはリフレッシュするための一人旅であることは分かるのだが、彼女が何者で何から逃げてきたのかも不明。サクラに至っては手荷物すらほとんどない。荷物とはその人間が背負ってきた過去、タエコはスーツケースを捨てることからこの島への同化を始める。「大切なものをしまっておいても、何をしまったのか忘れてしまう」というセリフに、人生に本当に大切なものなどほんのわずかしかないということをこの映画は教えてくれる。

 授業をサボってばかりの教師やタエコを追ってやってくる青年が登場するが、事件らしいことは何も起きない。寝て、食べて、当たり障りのない会話をするという単調すぎる展開。それでもその居心地のよさにタエコは染まっていく。そんな時、突然の雨と共にサクラは島を去り、奇妙な共同生活は終わる。サクラにもまた日常があり、この島での非日常は彼女にとっての一部分でしかないのだ。他の登場人物にとってもそれは同じこと。生活臭を消し去ることで逆に日常のせわしなさを際立たせる、非常に手練れた構成だった。

福本次郎

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