のんちゃんのり弁 - 山口拓朗

◆目標に向かって猪突猛進していくくだりが痛快(60点)

 下町で育った31歳の永井小巻(小西真奈美)は、夫と娘ののんちゃんの3人で暮らしていた。ある日、ぐうたらな自称小説家の夫に愛想を尽かせた小巻は、のんちゃんを連れて実家に戻った。職探しを始めたものの、特別な技能や資格もなく、拘束時間などで何かと条件の多い子持ち女性を雇ってくれる会社などそうはない。そんな折、小巻が作ったのり弁が評判となり……。

 1995年から1998年にかけて『モーニング』誌上で連載された人気漫画「のんちゃんのり弁」を実写映画化。監督は人間観察眼に優れた描写が光る緒方明。離婚と自立を決意した30女の底力が堪能できるドタバタ奮闘記だ。

 下町育ちというもともとの気質に加え、ダメ亭主からの離陸という事情も手伝って、離婚を決意してからの小巻の立ち直りは意外と早い。とはいえ、現実は甘くはなく、会社面接では辛酸をなめてばかり。ある面接官には「あなた、日本経済なめてません?」とまで言われるありさまだ。やっとこさ雇ってもらった水商売の仕事初日に小巻が起こしたトラブルは、小巻の意欲とプライドをズタズタに切り裂く。離婚経験のある女性のなかには、あるいは似たような経験をしたことがある人もいるかもしれない。

 そんな小巻が、ある小料理屋で「感動の味」に出会ったことを契機に、お弁当屋さんを開くことを決意。目標に向かって猪突猛進していくくだりが痛快だ。料理の研究をし、小料理屋で技を盗み、一歩ずつ着実に階段を上っていく。弟子入りを断られた小巻が、小料理屋の主人に速射砲で熱意を語るシーンは、そのほほ笑ましいほどの愚直さが、静かな感動を誘う。人間はやはり好きこそを仕事にするのが最上の幸せ、ということなのだろうか?

 テンポは今ひとつながら、小巻の自立を描いた物語を大黒柱に、未練がましい夫との諍いや、出戻り娘を心配する母親との関係、昔好きだった同級生との恋物語など、涙あり、笑いありのサブストーリーを編み込むことで、映画は下町人情劇っぽい風合いを醸す。奇をてらった物語ではないだけに、同級生との恋のゆくえにはもう少し希望があっても良かった気がするが、そうした手厳しい采配は、緒方監督らしい主人公への愛情と解釈しよう。

 見逃せないのが、時折挟まれる小巻特製のり弁の解説イラストだ。いかにも変化球な演出自体の楽しさもさることながら、こののり弁自体が、「見た目重視」のキャラ弁とは一線を画し、あくまでも「味重視」の本格派なところが好感度大だ。できればオープン初日に用意した弁当の図解もほしかった。

 大立ち回りまで披露した小西真奈美の頑張りはもとより、ベテランの倍賞美津子や岸部一徳、中堅の岡田義徳や村上淳、若手の山口紗弥加らの個性が、歯車としてほどよく絡み合って、娯楽作品としてのまとまりを手に入れた1本。自分の特技を活かして仕事をバリバリ頑張りたいという30代の主婦やシングルマザーにとっては、モチベーションアップを促すカンフル剤となるかもしれない。

山口拓朗

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