◆東京の下町・京島の風景が生き生きと描かれた喜劇。31歳子持ち女性の現実がコミカルだがリアルに描かれ、同年代の女性に素直に共感してもらえそうだ(70点)
ダメ亭主に愛想を尽かし、実家の東京・京島に戻った31歳の子持ち女性・永井小巻を小西真奈美が演じるコメディー。小巻は独り立ちするため仕事の面接を受けまくるが、どこからも断られ、貯金も減るばかり。水商売を紹介されるが、セクハラを受けてすぐに断念する。そんな中、娘のために作ったのり弁が評判となり、弁当屋を開く決心をする。
コメディーというより、ちょっと古くさく「喜劇」と呼んだ方がしっくりくる作品だ。商店街、神社、公園、飲み屋街と、舞台となる京島の町が、実に生き生きと描かれていて、映画を見ているうちに、まるで自分が歩いているように、下町の様子が見えてくる。ドラマの雰囲気とは、風景を描くことによって作り上げられていくものだ。そして寅さんシリーズを例に出すまでもなく、舞台となる町がきちんと描かれている作品は、大抵出来がいい。本作もそこが素晴らしいと思った。
喜劇には達者な役者も欠かせないが、小巻の母親役の倍賞美津子、居酒屋の主人の岸部一徳、小巻の幼なじみの村上淳、ダメ亭主の岡田義徳らが、自然に下町の風景に溶け込んでいて、物語もテンポよく進む。緒方明監督の演出は非常にバランスがよく、見せたいところは思い切りよく見せ、大袈裟になるぎりぎり手前で抑制する。押し引きの呼吸がとてもいいと思った。
だが、そのバランスとテンポが、時に崩れてしまうところがある。それは、小巻の感情が盛り上がって爆発する場面だ。感情に合わせて、カメラが引きの絵からぐっと主人公に寄っていく。アップの小西真奈美が、早口で長いセリフを語り出す。そこでふいに、映画が映画であることを思い出した。これは「演技」なのだと意識してしまった。喜劇は難しい。他の部分のバランスが絶妙なだけに、小西真奈美の熱演が、作品の雰囲気から少しでも浮くと、非常に目立ってしまう。惜しいと思った。
31歳子持ち女性の現実がコミカルだがリアルに描かれていて、同年代の女性には素直に共感出来る作品だと思う。小巻と夫とが居酒屋でケンカをする場面はまるでアクション映画のようで面白かった。店を次々と破壊しながら、まさに格闘する。小巻の感情の爆発も、セリフでなくアクションなら違和感がなかった。
(小梶勝男)