◆さまざまな困難を乗り越えるプロセスは少々駆け足だが、それでもクライマックスに、ついにサンゴの産卵に成功する場面は感動的(55点)
沖縄のおおらかなイメージと厳しい現実が交差する物語は、さながらサンゴ版プロジェクトXだ。子供の頃から海の生物が大好きだった健司は、幼馴染の由莉と結婚し子供にも恵まれ、レストラン事業を営みながら幸せに暮らしていた。だが久しぶりに潜った海で、サンゴが危機的な状況にあるのを知る。健司は順調だった店を閉めてサンゴ再生を宣言、試行錯誤を繰り返すが、そこには行政の壁や産卵の失敗、多額の借金など、多くの試練が待っていた…。
世界で初めてサンゴの移植産卵に成功した金城浩二氏の実話に基づく物語は、沖縄の海を愛する主人公の無鉄砲な行動と、彼を支える妻の、二人三脚の奮闘を軸に描かれる。子供のように純真な夫はある意味ダメ男なのだが、妻の由莉も、人魚の存在を信じているような、どこか浮世離れしたふしぎちゃん。経済面での苦労はあれど、沖縄の女性とはこんなにも強くたくましいのかと驚いてしまう。それにしても、30年間でサンゴ礁の9割が死滅しているという沖縄の海の実態は深刻なものだ。だが、環境保護と開発という避けて通れない相反する問題が横たわって、サンゴ再生の道は険しい。サンゴの養殖と海への移植は前例がなく、専門知識も資金もない、いわば素人の主人公へのバッシングは映画の何倍も激しかっただろう。さまざまな困難を乗り越えるプロセスは少々駆け足だが、それでもクライマックスに、ついにサンゴの産卵に成功する場面は感動的。海中で宝石のようにきらめく無数のサンゴの卵は幻想的で美しい。沖縄という土地を心底愛していなければ成し遂げられなかった偉業だと思う。しかしなぜ、沖縄出身の俳優ではなく大阪出身の岡村隆史? 意外にも頑張ってはいるが、キャスティングには疑問が残った。タイトルは「てぃだ(太陽)」が「かんかん」照りの意味で、幸せの象徴なのだそう。いつもマイペース、何事にもへこたれない家族にぴったりの言葉である。
(渡まち子)