つぐない - 岡本太陽

キーラ・ナイトレイ主演の本年度ゴールデン・グローブ最多ノミネート作品。(85点)

 イアン・マキューアンという英国人作家がいる。彼は1998年の処女作『アムステルダム』で一躍有名になった。そして続く『贖罪』でも多くの賞を受賞している。この彼の『贖罪』が映画化され、今年のヴェネツィア国際映画祭でオープニングを飾った。キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ主演による『つぐない(原題:ATONEMENT)』という作品だ。

 1935年夏、第二次世界大戦が始まろうとしている頃、13歳の少女ブライオニー・タリス(シーアシャ・ローナン)は帰省してくる兄リオンの為に自作の劇を書き上げる。しかし、いとこのローラと彼女の双子の兄弟たちは乗り気ではない。そんな折、ふと窓から外を覗くと、庭の噴水のとこに姉セシリア(キーラ・ナイトレイ)と、使用人の息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)の姿を見る。それは口論の様にも見受けられるが、しばらくしてセシリアは下着姿になり噴水に飛び込む。ブライオニーはボビーが無理矢理セシリアを脱がせたと思い込んでしまう。ボビーに対して小さな恋心が芽生えていたブライオニーにとって、それは苛立たしい出来事でもあった。しばらくしてブラオニーがひとりで遊んでいると、ボビーが手紙を持ってやって来る。その手紙をセシリアに渡して欲しいのだという。直ぐさま家に帰り手紙を読んでしまうブライオニー。それには最後に「your sweet wet cunt」という淫らな言葉が書かれてあった。そこへ兄リオンが金持ちの友人を連れて屋敷にやって来る。そしてブライオニーはセシリアに既読の手紙を渡すが、セシリアは妹が読んでしまった事に動揺してしまう。家族が揃ったその晩、ブライオニーの誤解により、姉セシリアとボビーの純愛は引き裂かれ、無情にも彼らの人生を狂わす出来事が起こる。そしてそれはブライオニーにとって一生背負わなければいけない罪となってしまう。

 この『つぐない』にはイギリス人監督ジョー・ライトが抜擢された。2005年にジェーン・オースティンの原作小説を映画化した『プライドと偏見』で長編映画初監督を果たし、これが高く評価された。そしてその映画でキーラ・ナイトレイはアカデミー主演女優賞にノミネートされ、演技もできる若き女優として、その名を世界に知らしめた。今回の『つぐない』でもナイトレイを主演に迎え、スタッフも前回の『プライドと偏見』組が再度集結し、再び文芸映画に挑んだ。

 目が離せないのは、今乗りに乗っているジェームズ・マカヴォイ。『ナルニア国物語ライオンと魔女』に出演して以降は、飛ぶ鳥を落とす勢いで話題の映画に出演し続けている。キーラ・ナイトレイと並ぶと知名度は劣るが今後が期待の俳優である。そして『つぐない』の中で13歳のブライオニーを演じるシーアシャ・ローナンにも注目だ。少女時代の広末涼子を彷彿とさせるルックスから放たれる瑞々しい演技が映画を彩る。その他にはヴァネッサ・レッドグレイヴ、アンソニー・ミンゲラ、ロモーラ・ガライ、ブレンダ・ブレッシン等が出演している。

 『つぐない』という邦題が付けられたこの作品だが、原題は『ATONEMENT』。確かに「つぐない」という意味だが、「つぐない」というと、どうしても”窓に西陽が あたる部屋は?”の方の「つぐない」を思い出してしまう。そのまま『アトーンメント』でも良かったのではないかと思う。きっとミドルエイジの方々がこのタイトルを聞いたらテレサ・テンかと勘違いするだろう。

 まず、この映画を観るにあたり、文芸作品であるため、どうしてもありきたりな映画ではないかと興味が薄れてしまうかもしれない。ましてキーラ・ナイトレイが主演の為、演技力はあっても、なんとなくどういう演技をするか想像が出来てしまう。なぜなら彼女は良くこの手の映画に出演するからだ。しかしながら、内容的には先が読めても、映画自体は非常に丁寧な作りを施してある為、わたしたちは作品の世界にのめり込むだろう。ストーリーラインも前半は少々サスペンス仕立て、後半は壮大なドラマ、監督の演出が光る。巧みという言葉が当てはまる映画であろう。

 この映画の面白い点は、観客の心が映画の登場人物の中の誰に共感するか分からないというところにもあるだろう。主な登場人物のセシリア、ロビー、ブライオニーの3人それぞれに心の痛みを抱えているので、観客が誰に共感し焦点を置くかによって感動の度合いも変わってくる。また、イギリスの裕福な中流家庭のあるスキャンダルによって引き裂かれた愛、それに伴う償い、義務、物語が進むに連れてだんだんとこの作品のテーマが浮き彫りになってくる。そして最後には感動が待っているのだ。非常に刺激的で力強い作風である。

 ところで、貧乳で有名なキーラ・ナイトレイだが、今回の映画では水着姿を披露しているので、またしても貧乳ということがわかってしまう作品であった。いっそのこと、ミドルネームを貧乳にしてはどうだろうか?キーラ・貧乳・ナイトレイ。しかしながら彼女はさすが演技派女優で、今年度のゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にノミネートされている。2年前はリーズ・ウィザースプーンに賞は持っていかれてしまったが今回はどうなるか注目が集まる。この『つぐない』は、実は彼女だけにとどまらず、主演男優賞にジェームズ・マカヴォイ、助演女優賞にシーアシャ・ローナン、その他作品賞、監督賞等、今年度のゴールデン・グローブ賞ノミネート最多作品となっているのだ。ゴールデン・グローブ効果で興行収入がどんどん伸びるに違いない。

 ブライオニーは彼女の嫉妬と誤解から、セシリアとロビーの幸せな時をぶち壊しにしてしまう。そしてその罪の意識は彼女が死ぬまで消えない。しかし、結局それはブライオニーにはどうしようもない事なのだ。戦争という悲惨な出来事が彼らの運命を狂わせてしまうのだから。これはただ単純にブライオニーの失態によって純愛が引き裂かれるだけの映画ではない。真っすぐに生きようとした人々が、皮肉にも歴史の渦に巻き込まれてしまう物語である。

 また、この映画ではタイプライターの音が印象的だ。タイプライターを打つシーンが随所に散りばめられている。しかもそれが効果的に使われており、ストーリーをスリリングにする。きっと映画が終わっても、この映画のことを思い出すと、そのタイプライターを打つ音を思い出すだろう。そしてバチバチバチバチという音が胸の中で鳴り響くのだ。

岡本太陽

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