ちょんまげぷりん - 福本次郎

◆仕事とはなにか、父親・母親の役割とはなにかという問いの答えを模索しつつ、映画は人生に本当に大切なものを探していく。江戸時代の侍が作るスイーツの数々がうっとりするほど美しく、その甘さが視覚を通じて伝わってくる。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 ピンと伸びた背筋、鋭い眼光と変わらない表情で、行儀の悪い子供を一喝し、男はやたら涙を見せぬものと諭す。そんな絵にかいたような古風な精神を持つ侍が現代の東京にタイムスリップし、変わり果てた江戸の風景に唖然としながらも、シングルマザーとその子供と触れ合ううちに次第に自分の生きる道を見つけていく。映画は、仕事とはなにか、父親・母親の役割とはなにかという問いの答えを模索しつつ、人生に本当に大切なものを探す。主人公が作るスイーツの数々がうっとりするほど美しく、その甘さが視覚を通じて伝わってくるようだ。

 文政年間の旗本・安兵衛はひろ子・友也母子の前に現れ、保護を求める。安兵衛は世話になった礼に外で働くひろ子に代わりに家事育児を引き受ける。ある日、友也にプリンをつくると大いに受け、その他にもケーキやミルフィーユなどの洋菓子作りに才能を開花させていく。

 安兵衛が受けるカルチャーショックを抑え気味にしたおかげで、作品が引きしまっている。あくまで武士の矜持を失わず、一方で女性が外で働く21世紀の現実を受け入れる安兵衛が、「奥向きの仕事」と決して手につけなかった掃除洗濯料理育児に凝るあたり、彼がいかに働くことに飢えていたかがよくわかる。「手づくりケーキコンテスト」でホワイトチョコの雪を降らせるシーンなど、武士の魂よりも頭と体を使う労働の尊さが見事の表現されていた。

 やがて3人は疑似家族になり、友也は安兵衛を父のように慕う。ひろ子も一本筋の通った男の生き方に魅力を感じる。ところが安兵衛が洋菓子店に勤め始めるとあまりの忙しさに友也の面倒を見られなくなり、友也は姿を消す。その際のイザコザで小競り合いになるが、安兵衛は一瞬で数人のチンピラを倒し、いざという時は命がけで戦う武士の覚悟を身をもって示す。最後にエプロンの腰紐にへらを差す場面が見事にキマっていた。父を必要とする子供、頼れる男手が欲しい母親、激変した環境に順応するために助言を求める侍。この3人が相互に依存しつつ助け合いながら絆を深めていく過程を、奇をてらわずに描いたところに好感がもてた。

福本次郎

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