ジャン=クロード・ヴァン・ダム出演映画史上最高のクオリティ!(70点)
90年代にスティーヴン・セガールと共にアクション映画界で活躍したベルギー、ブリュッセル出身の俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダム。『ユニバーサル・ソルジャー』『ハード・ターゲット』『ストリートファイター』『タイムコップ』等代表作も多数。新作『その男ヴァン・ダム(原題:JCVD)』はヴァン・ダムがジャン=クロード・ヴァン・ダムという48歳の1度一世を風靡したアクション俳優を演じ、彼の歳をとってもアクション俳優として生きなければならない悲しい現実を描いている。これは半分本当で、半分フィクションの様な物語。
時代の流れと共にメジャー作品から姿を消したジャン=クロード・ヴァン・ダム。その彼に目を付けたのはヴァン・ダム好きのブラジル人映画監督のマブルク・エル・メクリ。監督はスパイク・ジョーンズやチャーリー・カウフマンに影響を受けており、『マルコヴィッチの穴』でも用いられていた、現実にいる人物がフィクションの中にいる自分を演じるという事にヒントを得ている。
『その男ヴァン・ダム』の主人公ジャン=クロード・ヴァン・ダムはまだアクション俳優として活動を続けている。そんな彼は娘の養育権の問題を抱えており、前妻との裁判が泥沼化している。当の娘もアクション映画俳優の父の事で学校でからかわれるため、父とは一緒に住みたくない。ヴァン・ダムは裁判のせいでもう金がなく、仕事を映画の制作側に求めるのだが、彼らはヴァン・ダムを尊重しない仕事ばかりを提案する。
そんなヴァン・ダムでも地元ブリュッセルに帰れば、スーパースター。そこでは彼はまだ国民的ヒーローなのだ。ヴァン・ダムは町にある銀行に行くのだが、彼が中に入っている間にどうやら銀行強盗が発生したらしく、町の人はヴァン・ダムが強盗に入ったと思い込んでしまう。それでも町はスターの帰郷に湧き、銀行周辺もメディアも大変な騒ぎになってしまう。悲しくも、映画ではなく、銀行強盗の犯人として再びヴァン・ダムは注目を浴びる。
物語の中には8分間のヴァン・ダムがドラッグ問題やアクション俳優としての自分の宿命を語る長回しのシーンがある。現実のヴァン・ダムもコカイン中毒で更生施設に入っていた事があるだけに、まるで本当の自分の事を語っている様に感じられる。ここでは涙をもらう人もいるかもしれない。『その男ヴァン・ダム』の中では実際のヴァン・ダムも抱えているであろう問題が浮き彫りになり、この作品はヴァン・ダムにとっては自虐とも言える仕事だ。しかし、この映画はヴァン・ダムファンによって作られた作品。ただの自虐に終わらないところが素晴らしい。
アクション俳優を続けていくのは体力的に難しい。シルベスタ・スタローンの様にアクション俳優として息の長い者もいるが、演技派へと転身するものも多いだろう。最近ではザ・ロックことドウェイン・ジョンソンが見事にアクション俳優からコメディよりの俳優へと転身し、演技の評価も上々だ。ジャン=クロード・ヴァン・ダムは一線は退いたが、今も尚アクション俳優を続けている。まるでアクション俳優でいる事が自分であるかの様に。その彼に敬意を捧げて作られた本作はシドニー・ルメットの『狼達の午後』をも彷彿とさせる物語で、ヴァン・ダム史上最高の質の映画と言っても過言ではないだろう。そして『その男ヴァン・ダム』は今一度ヴァン・ダムという人物に注目したくなる映画である。
(岡本太陽)