◆抑制の効いた演出が光る佳作(70点)
心に抱いた悲しみを描く物語にふさわしい、抑制の効いた演出が光る佳作だ。15年の刑期をおえたジュリエットは、歳の離れた妹レアの家に身を寄せる。再会した姉妹は互いに遠慮して、打ち解けることができない。ジュリエットの犯した罪は、幼い我が子を殺したことだ。その理由を決して語ろうとせず、自分の殻に閉じこもる姉の心に、懸命に近づこうとするレア。妹や周囲の人々とのぎこちない触れ合いの中で、ジュリエットは少しずつ変化を見せ始める…。
硬質な表情のジュリエットの抱える孤独は、見ているこちらの体まで青く染めてしまいそうなほど、冷たく深い。妹のレアもまた、姉の罪ゆえか自分の子を産むことを恐れている。最初、けなげに姉を支えようとするレアの存在に、ジュリエットがとまどいと怒りを感じているのが分かる。自分の苦悩は誰にも分からないといわんばかりの頑なな態度は、自分で自分を罰しているかのようだ。印象的なのは姉妹の母親との再会の場面である。レアのことが娘と分からない認知症の母は、ジュリエットのことはすぐに彼女と分かる。母から自分の存在そのものを否定されていると思い込んでいたジュリエットには、母親の抱擁は激しいカンフル剤だ。どんな理由があるにせよ、母親の心から我が子を消し去ることなどできない。この物語の本質である、罪のつぐないと、自分自身の再生という問いの答えが、この母との再会から見えてくる。
物語は殺人の理由を終盤まで明かさずミステリアスに展開するが、ついにジュリエットが自分の罪を語るシークエンスに圧倒された。その激しさは、さざ波のような物語が一気に嵐に見舞われたかのよう。すべての感情をぶつけて激昂し涙を流すクリスティン・スコット・トーマスの演技は圧巻だ。初めて本気で向き合った姉妹が静かにみつめる雨が、心の浄化の見事なメタファーになっている。悲しみを受け止め痛みを分け合ったこの瞬間、姉妹は本当の再会を果たしたのだ。劇中に、ジュリエットと、彼女に好意を抱いているミシェルが並んで螺旋階段から下を見る図があるが、その上に、天使のオブジェがある場面の、アーティスティックな構図が素晴らしい。それは人間世界を見つめる赦しのまなざしだ。フィリップ・クローデル監督の本業は小説家だが、映像感覚もすばらしい人のようである。
(渡まち子)