すべて彼女のために - 佐々木貴之

◆真犯人を追求して無実を証明するというありがちなサスペンスドラマではない(80点)

 フレッド・カヴァイエの長編監督デビュー作で主演は、フランスの人気役者ヴァンサン・ランドンと『イングロリアス・バスターズ』(09)でドイツ人女優役を好演したことが記憶に新しいダイアン・クルーガー。

 国語教師ジュリアン(ヴァンサン・ランドン)と出版社勤務の雑誌編集者リザ(ダイアン・クルーガー)は、一人息子オスカルと三人で平凡ながらも円満な生活を送っていた。ある日、警察が家に押しかけ、リザが身に覚えのない殺人容疑で逮捕、投獄されてしまう。三年後、リザは無実を主張しているものの証拠不十分なために二十年の禁固刑を喰らうハメになってしまう。リザは精神的ダメージもかなり大きく、衰退し、ついに自殺未遂をやらかしてしまうまで追い込まれてしまう。リザを愛し、信用している夫ジュリアンは、ついに脱獄計画を企てるが……。

 このドラマの見所は、ジュリアンが最愛の妻リザのためにすべてを犠牲にしてまで危ない橋を渡ろうとするその行動と姿だ。だから、真犯人を追求して無実を証明するというありがちなサスペンスドラマではない。開始から約十五分ぐらいで殺人事件の内容、リザがなぜ逮捕されたかが明確にされる。

 ジュリアンは単なるごく普通の教師。そんな平凡な男だから、脱獄経験者に面会して指南してもらい、刑務所の構造をチェックして綿密に計画を企てる。このような描写は観る者の興味をそそり、その面白さもしっかりと味わえるが、「妻を信用し、愛しているからこそここまでやれるのだ!!」ということがしっかりと伝わってくる。

 ストーリーが進むにつれてジュリアンは平凡な教師から真のアウトローになってしまう。その後はスリリングな展開が用意され、面白さも一気にヒートアップする。果たして、ジュリアンの行動は計画通りにうまくやってのけるのか? 一家三人はどうなってしまうのか? といったことを気に掛けながらラストまでハラハラドキドキの面白さを堪能するべきと言いたい。

 脱獄計画やリザに対する愛情以外にも息子オスカルに対する愛情もしっかりと描かれている点も注目度が高く、これによって家族愛がしっかりと伝わってくるのである。

 本作は既にハリウッドでのリメイクが決定している。しかも、ポール・ハギス監督ときたものだから、社会性をしっかりと踏まえた作風に仕上がることだろう。オリジナル版が面白かったものだから、リメイク版には大きな期待を抱いてしまう。

佐々木貴之

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