◆女子中学生がいい歳した男の前に餌をたらし、食いついてくると身をかわす。気まぐれなのか確信犯なのか、男はずるずると彼女のペースに引き込まれていく。そのリアルなセリフと軽妙な語り口が、そこはかとない笑いを誘う。(70点)
ふとした言葉に期待して、ちょっとした仕種に妄想を膨らませる。そんな単純な男の思いを翻弄する少女の言動が恐ろしい。まだ中学生なのに巧みに表と裏を使い分け、いい歳した男の前に餌をたらし、食いついてくると身をかわす。気まぐれなのか確信犯でからかっているのか、男はずるずると彼女のペースに引き込まれていく。映画はその、恋人の妹に心を奪われた主人公に潜む、人間の愚かさと浅はかさをユーモラスに描く。ありふれた暮らしがいつしか予想外の修羅場になっているという本来は深刻な物語なのに、泥臭いまでにリアルなセリフと軽妙な語り口のおかげでそこはかとない笑いを誘う。
百瀬と佳代が同棲中のアパートに、佳代の妹・桃が夏休みを利用して遊びに来る。桃の無防備なまでの女の匂いに百瀬はのぼせあがってしまった挙句、桃が帰った後で佳代と大喧嘩しアパートを飛び出してしまう。
マルチ商法の勧誘に始まり、桃とのとりとめのない会話で舞い上がる百瀬、小さなきっかけでヒステリーを起こす佳代、百瀬と後輩とのやり取りなど、何気ない日常の風景を丹念にとらえることで百瀬と佳代がおかれた現実が立体的に浮かび上がってくる。百瀬は桃と秘密を共有し、その秘密が佳代にばれないかとドキドキしているが、佳代と桃の姉妹の間にもどこか埋めがたい溝がある。そして佳代は百瀬にもっと愛してもらいたいと願っている。3人が3人とも自分の気持ちばかりを優先し、他人の気持ちには鈍感になっていく。その過程で百瀬のセコさと佳代の思い込みの激しさがエスカレートし、彼らの世界が少しずつ歪んでいく構成が素晴らしい。
やがて佳代は百瀬を追いまわし始める。そこでも佳代は勝手に百瀬の部屋に上がって掃除をしたり弁当を作ったりとストーカーをしているにもかかわらず、「アメリ」みたいと己に酔っている。百瀬は桃の留守電にメッセージを送り続ける。2人の、己の行為が相手の迷惑になっていることに考えが及ばないズレた感覚は、まさに現代の若者気質を象徴しているようだ。一方で、3人が 3人とも気まずさと負い目をお互いに感じている。そのあたりの繊細な感情が微妙な緊張でバランスをとるラストシーンに一抹の明るさが見える、後味の良い作品だった。
(福本次郎)