アレンお得意の会話の応酬もやや不発気味(55点)
恋愛模様を絡めたコメディには定評のある映画監督ウディ・アレンによる2002年の作品。
かつてオスカーを手にしたこともある映画監督(W・アレン)は、いまや落ちぶれてろくな仕事もこない。そんなある日、プロデューサーの元妻(ティア・レオーニ)から大作の話が舞い込むが、その製作会社の担当役員は、よりにもよって妻を寝取った男だった。重なる心労から主人公は、クランクイン直前に心因性の失明になってしまう。
例によって監督のアレン自身が主演するコメディドラマだ。ハリウッドのしがらみと背に腹は変えられない経済的な事情により、よりにもよって娯楽大作を撮る羽目になってしまう主人公。映画作家として思うように仕事を進められない苦悩やストレスを、軽快な笑いに変えてしまうあたりが、いかにもこの監督らしい業界への皮肉といったところだ。
相手役は知的な美人で、アレンとの軽妙な会話のユーモアで観客を楽しませる。ストーリーは一本道で、相手女性がホイホイくっついてくる都合のよさにも新味は無いが、ラストにアレン自身が語るセリフには観客をうならせる説得力があり、さすがに上手くまとめている。
自らの業界を軽くパロディにした作品ではあるが、嫌味を感じさせずテンポ良く見せる。使われる音楽のセンスの良さも光る。ただし、前半の会話の応酬には以前のキレの良さは見られない。私のみならず、年配の観客のウケも悪かったように思える。
この監督の作品には、どことなくクラシカルなムードが漂う品の良さがあるが、本作もその例に漏れない。彼の作品の中では平凡であるが、たとえば静かなミニシアターで中年の夫婦が鑑賞するには、こいつはなかなかいいセレクションではあるまいか。
(前田有一)