さや侍 - 福本次郎

主人公と協力者がネタを思いつき芸に昇華させる過程で、松本人志は“笑い”の本質に迫っていく。(点数 50点)


(C) 2011「さや侍」製作委員会

刀はないのに、その鞘だけは決して手放そうとしない。それは戦いを
避けてきた男に残った最後の希望。そして彼は、誇り高く死ぬために
道化になり、道化を続けて誇りを取り戻していく。映画は切腹の代わ
りに慣れない一発芸を披露する侍と彼の娘を通じ、親子の関係の中で
真剣に人生に向き合う姿を描いていく。主人公が生みだす凍りついた
場の空気はそのまま現代の芸人たちが無名時代にライブで体験してき
た試練。彼と協力者がネタを思いつき芸に昇華させる過程で、松本人
志は“笑い”の本質に迫っていく。

脱藩の罪で、「30日以内に若君を笑わせたら無罪放免、笑わせられな
かったら切腹」という“三十日の業”を言い渡された野見は、娘のた
えになじららながらも慣れないネタ作りに頭をひねる。

やがて2人の牢番もネタに口をはさみはじめ、一発芸は大掛かりになっ
ていく。最初のうちは野見が刀を捨て逃げてばかりだとなじっていた
たえも、必死で笑わせようと努力する野見に、“三十日の業”の成功
を願うようになる。さらにショータイムが一般公開され、街中の人気
者になる野見は、業のなかで初めて己が他人に期待され必要とされて
いることに気付いたはず。

野見の表情はほとんど変わらず感情は見えてこない。だが、芸に挑戦
するときに肉体から迸る生気こそ、彼もまたこの業で何かを達成させ
ようとしていた事実を物語る。

福本次郎

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