さそり - 小梶勝男

◆クンフー映画ファンにお薦め(55点)

 1970年代前半に伊藤俊也監督、梶芽衣子主演で4本作られた「女囚さそり」シリーズ(4作目のみ長谷部安春監督)の、香港スタッフによるリメーク。主演は、最近はアクション女優として活躍している水野美紀だ。

 女囚の復讐物語という点では、ストーリーの大枠はオリジナルの通り。だが残念ながら、「女囚さそり」シリーズのファンにはお薦め出来る内容ではなかった。「反権力」の視点、梶芽衣子のスタイリッシュなカッコ良さ、ホラー映画のような独特の雰囲気――オリジナルにあったどの要素も、このリメークにはない。水野自身も、「日本の『さそり』とは全くの別もの」と断言している。

 その代わり、クンフー映画ファンには、必見と言っていい。あの伝説のクンフー・スター、ブルース・リャンが出演している。しかもクライマックスに、水野との1対1のバトルを見せてくれるのだ。

 リャンは74年、「帰ってきたドラゴン」「無敵のゴッドファーザー/ドラゴン世界を征く」に主演。両作で日本を代表するクンフー・スター、倉田保昭と素晴らしいファイトを繰り広げた。走っては戦い、戦っては走り、延々と続く「マラソン・ファイト」は、今見てもワクワクする。数年前、筆者が倉田にインタビューした際、「ちょっとかがんだ僕をリャンは軽々と飛び越えることが出来た」と、そのジャンプ力の凄さに舌を巻いていたが、まさに両作でのリャンは、全身がバネのようだった。

 当時の香港映画では、日本人の倉田は当然悪役だ。激闘の末、最後はリャンに倒された。一方で、水野は倉田が主宰する「倉田アクションクラブ」出身。クラブの所属ではなく、アクションを習いに通っていたそうだが、「倉田の弟子」と言えるだろう。つまり、水野にとってリャンとの戦いは、師匠の仇討ちということになる。しかも舞台は香港。時空を超えて、70年代のヒロインになって、だ。

 リャンに敗れた倉田が、復讐のため密かに育てた女クンフー使い。それが水野版「さそり」ではないか。現実と映画をごっちゃにして、そんな妄想を膨らませるのが、クンフー映画ファンとしての正しい見方かも知れない。

 すでに還暦を超えたリャンだが、圧倒的な迫力と鋭い蹴りはさすがだ。水野の動きもいい。しかし、この戦いはそれだけでは終わらない。いや、終わるのだが、その終わり方が何とも凄い。イスからずっこける、と言って本当にずっこける人もいないと思うが、そんなベタな表現を使いたくなるほど珍妙というか、バカバカしいというか。とにかく変なのだ。どれほど変かは、是非、映画館で確かめて欲しい。

 また、本作の前半は「さそり」シリーズ同様に「女囚もの」として見ることも出来る。泥レス、リンチ、所長のセクハラと、定番シーンは全部そろっている。

 全体の評価としては「55点」だが、いろんな意味でディープに楽しめた。ちなみに、撮影現場で水野はリャンに倉田の話を振ったそうだが、「倉田さんと言っても通じなかった」という。香港では倉田は「ツァンティエン・パオザオ」の名前で呼ばれている。

小梶勝男

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