かいじゅうたちのいるところ - 福本次郎

◆そろそろ身の回りの雑事は自分でやらなければならない年頃になった少年が、抑えていた苛立ちを爆発させる。言いたいことをうまくいえず、他人を困らせて感情を表現する子供の行動は、見る者に幼き日の記憶をよみがえらせる。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 お姉ちゃんと遊びたいのに相手にしてもらえない、お母さんにかまってほしいのにこっちを向いてくれない、かわいがってくれたお父さんはもう家を出て行った。年上の家族が面倒を見てくれた幼年期は終わり、そろそろ身の回りの雑事は自分でやらなければならない年頃になった少年が、抑えていた苛立ちを爆発させる。言いたいことをうまくいえず、他人を困らせて感情を表現する子供の行動は、見る者に幼き日の記憶をよみがえらせるだろう。誰もが経験があり、大人になって失ってしまった気持ちが切ないほどリアルに再現される。

 母に叱られたマックスは家を飛び出し、気が付くと小さなヨットに乗っていた。海を越えて漂着した小さな島では、毛むくじゃらのかいじゅうが家を壊している最中。マックスはかいじゅうたちに見つかり、食べられそうになったときに「ぼくは王様だ」と嘘をつく。

 かいじゅうたちの造形がいかにも子供の空想らしくチャーミング。毛むくじゃらだけれどフカフカ、大きいけれど体重は軽い、ぬいぐるみを巨大にした体形が微笑ましい。マックスは王様としてかいじゅう踊りを命じ、自分自身をストレスから解放する。子供は子供なりに悩みがあり、大人になってしまうと些事で胸を痛めていた過去など忘れてしまうということを思い出させてくれる心が洗われるようなシーンだった。

 マックスが王様になって皆が幸せになれるはずだったのに、皆を幸せにしようとすると誰かが不幸になる。そんな不満がかいじゅうたちの間でくすぶり、やがて王様としての器量が問われていく。彼らの不満は現実世界のマックスの潜在意識でもあるので、マックスは解決策が見つからず、結局逃げ出してしまう。家に戻ったマックスは母親に抱きしめられるが、子供の不満など親に放置されることに尽きる。マックスの奔放なイマジネーションは楽しかったが、一方で大人の想像力を刺激するまでに至らなかったのが残念だ。

福本次郎

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