◆こびない作風と激しい飛躍がいかにもスパイク・ジョーンズらしい(55点)
ミュージック・ビデオ出身のスパイク・ジョーンズは、映画界でもとびきりのクセモノである。そんな監督が、大人気の絵本を実写化するからには、普通の映画であるはずがない。寂しがりやでいたずら好きの少年マックスは、いつものようにママと喧嘩して、外に飛び出してしまう。懸命に走り、ふと気付くと、不思議な“かいじゅう”たちが住む島に辿り着いた。マックスは個性豊かな怪獣たちの王様になって、遊び、踊り、願いがかなう理想の場所を作ろうとするが…。
物語の軸になるのは、コミュニケーションの難しさと多様性だ。マックスの孤独は一番身近にいる肉親に伝わらないが、何でも命令できるはずの王様になっても、繊細で傷つきやすい怪獣たちと上手くコミュニケーションできず、もどかしさを感じる。自分の周囲にあるものを片っ端からブチ壊し、モコモコのかいじゅうたちに埋もれるようにして眠っても満たされないマックスの心の空洞は、荒れた海、鬱蒼とした森、虚しさが漂う砂漠など、すべての風景に重なっていく。シュールなルックスの怪獣たちは、実はマックスの分身。リーダーのキャロルに優しいKW、おとなしいザ・ブルや意地悪なジュディス。すべてがマックスなのだ。
父親という絶対的な存在を欠いた家庭で居場所を失くした少年は、同じように、導いてくれる王を求めるかいじゅうたちによって自分自身を知ったのだろう。自分と折り合いをつけるその場所で学ぶことは数多い。孤独なのは自分だけではなく、王国を支配するのは容易ではないが、世界は複雑で不思議に満ちていることは理解できたはずだ。ジョーンズ監督の十八番である頭の中での出来事は、今回は、かいじゅうたちとの出会いと別れだった。奇妙なファンタジーだが、説教臭い部分がまったくないのは、唐突なエンディングからも明らか。こびない作風と激しい飛躍がいかにもスパイク・ジョーンズらしい。この映画は、かつて子供だった大人の、失われた痛みを思い出させ、ちょっと寂しくなる。
(渡まち子)