お買いもの中毒な私! - 町田敦夫

◆アイラ・フィッシャーの突き抜けたコメディエンヌぶりが「買い」(70点)

 アン・ハサウェイ主演の『プラダを着た悪魔』は、硬派なジャーナリスト志望の女の子がファッション雑誌に配属されて……というコメディだったが、『お買いもの中毒な私!』はその逆パターン。「お買いもの命」のレベッカはファッション雑誌への就職を狙うも、手違いからお堅い経済誌に採用される。チンプンカンプンの経済用語をネットで調べながら書きあげた記事は、しかし消費者の心理をとらえていると編集長から高評価。しかもよく見ると、この編集長、わりとハンサムで……。

 ヒロインのレベッカはタイトルにある通りのお買いもの中毒。部屋の中はドレスや靴で足の踏み場もないほどだが、素敵な服やバッグを見ると、もう買わずにはいられない。かといって高額所得者ではないから、もっぱら支払いはカード(=借金)。その悪癖が原因で親友には絶交され、仕事や恋も失うことに。そんな「困ったちゃん」が観客からそっぽを向かれないのは、ひとえに演じるアイラ・フィッシャーのコメディセンスがあればこそ。彼女の珍妙なダンスや、借金取りから逃げ回るあの手この手に、客席は爆笑に包まれるはずだ。

 編集長のルークを颯爽と演じたのはヒュー・ダンシー。これまでの出演作ではどちらかといえば情けない役柄が目立ったが、本作ではクイーンズ・イングリッシュも歯切れよく、ヒロインの師となり、恋人となる。2人の性格と作品のテーマを的確に絡めた出会いのシーンのシチュエーションが秀逸。そこでルークが口にする「値段と価値は別物だ」というセリフは、けっこう深い真理をついていると言えるかも。2人を引き合わせた緑のスカーフが、最後にまた重要な役割を果たすあたり、小道具の使い方も心憎い。

 冒頭からエンディングに至るまで、本作にはお買いものにまつわるギャグが満載だ。バーゲン会場の大乱闘あり、(薬物ならぬ)お買いもの依存症患者のための大まじめな更生会あり。ショーウィンドーのマネキンがCGで動き出し、ヒロインを散財へといざなうのには笑った。そうか、女の子たちの目には、街はこんなふうに見えていたのか。

 とはいえ本作は単なるドタバタ劇では終わらない。レベッカが語る「お買いものをすると世界が素敵になる。でも素敵な世界はすぐに終わる。だからまたお買いものをしちゃう」なんてセリフは、「お買いもの」の部分を他の言葉で置き換えれば、寂しさを抱えるすべての人の共感を呼びそうだ。それでもすべてを失ったヒロインは、自分の「ビョーキ」を克服しようと大奮闘し、いつしかキャリアも恋も手に入れる。お買いものの好きな方もそうでない方も、観れば元気になること請け合いだ。

 あなたが女性なら、ヒロインが取っかえ引っかえ身につける華麗なファッションを目の肥やしにするすることもできるだろう。もちろん、「華麗なファッション」が画面に登場するということは、ファッション業界とはなあなあで作られた映画だということ。おじさんライターとしては、「カード依存」をチクリと批判するだけで、「ブランド信仰」や「お買いものでストレスを解消する行為」自体には一切メスを入れない作り手の姿勢に、多少の疑問を感じないではないのだけれど。

町田敦夫

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