おとうと - 福本次郎

◆迷惑ばかりかけられるのに見捨てることができない。幼いころから弟の出来の悪さを知っている、血縁の濃い姉という立場の微妙な距離感と戸惑いを吉永小百合が上品に演じ、彼女が口にする言葉の美しさが映画に品を与えている。(80点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 出来が悪いからこそいとおしく、迷惑ばかりかけられるのに見捨てられない、肉親のストレートな情愛。中年を過ぎてもいまだに中途半端な生き方しかできず身内のトラブルメーカーとなっている弟を持ったヒロインは、いつか彼が立ち直ると期待している。物語は、そんな姉と弟の腐れ縁を人情味あふれるタッチで描く。親ならばたいてい先に死ぬが、姉はほぼ同時に年をとる。幼いころから弟の素行を知っている、血縁の濃い姉という立場の微妙な距離感と戸惑いを吉永小百合が上品に演じ、彼女が口にする言葉の美しさが映画に品を与えている。

 薬局を営む吟子は娘の小春の結婚式に弟の鉄郎を招くが、招待状が返送されてくる。しかし、式の当日突然現れた鉄郎は泥酔して披露宴をぶち壊す。その後、小春は離婚、折悪く鉄郎に貸したカネを返してほしいと女が訪ねてくる。

 吟子と小春、そして吟子の兄たちのコミュニケーションは、まるで古いNHKドラマを見ているような非常に丁寧な日本語が使われる。鉄郎が話す大阪弁も、酔っているときは別にしてとてもたおやかだ。おそらく彼らは裕福な家庭に育ち教育熱心な親に育てられたのだろう。だから、三兄姉弟でひとり「ごんたくれ」の鉄郎は子供のころから家庭に居場所がなくはみ出し者になったのだ。両親にも大切にされず、味方は姉の吟子ひとり。会話からにじみ出る雰囲気と言葉遣いだけで鉄郎の人生を洞察させる見事な脚本だった。

 借金を肩代わりしたことから今度こそ絶縁、と見せかけて、吟子は密かに鉄郎の捜索願を警察に出している。大阪で見つかった時には末期がんで余命いくばくもないほどに弱っている。ホスピスで死を待つ鉄郎を吟子はまた献身的に看護する。雑然とした三業地に佇立し新世界を見守っているような通天閣は、どんなときにも鉄郎を気にかけている吟子のよう。離れているときは心配し、そばにいるときは世話を焼く。無条件で人を愛するとはどういうことかこの作品は教えてくれる。余談ながら、笹野高史扮する東京都大田区の自転車屋が「さすべえ」を使っているのはほほえましかった。また、小春の再婚を祝って義母・吟子・小春が鉄郎の遺影を前にワイングラスを傾ける最後のシーンでは、役者の口の動きとセリフの音声がわずかにズレていたが、これは映写機の不具合なのか監督の確信犯なのか、気になった。

福本次郎

【おすすめサイト】