おくりびと - 福本次郎

横たわる遺体に死に装束を着せ死化粧を施す。その所作は歯切れよく威厳を保ち、なおかつ静謐な優しさに満ち溢れている。死への旅支度をととのえる役目を背負った主人公の姿を通じて、死と向き合うとはどういうことかを問う。(70点)

© 2008 映画「おくりびと」製作委員会

 横たわる遺体に死装束を着せ死化粧を施す。その身のこなしは歯切れよく威厳を保ち、なおかつ静謐な優しさに満ち溢れている。人として生まれてきた者が、現世での役目を終えて静かに旅立っていく。その支度をととのえる役目を背負った主人公の姿を通じて、死と向き合うとはどういうことかを問う。若い命を散らして両親が泣き叫ぶ死もあれば、大往生して笑顔でサヨナラという死もある。葬儀の場で遺族の見せる表情が故人の生き方を饒舌に物語り、それを見つめる主人公もまた、さまざまな死から自分の人生を問い直していく。

 オーケストラの解散で失業したチェロ奏者の大吾は妻の美香とともに故郷の山形に帰る。そこで見つけたのは葬儀で遺体を扱う納棺師という仕事。社長の見習いとして働き始めるが、初仕事は腐乱死体の処理だった。

 死体に触れるという「穢れ」を感じながらもカネのために続けている大吾は、社長の仕事ぶりを見て、それが決して禁忌ではなく荘厳な儀式であることを知る。妻に面と向かって「汚らわしい」と言われ、友人からもさげすんだ目で見られることで、世間のこの職業に対する差別意識を目の当たりにするが、だからこそ逆に自分がきちんとやらなければと、気持ちを切り替えていく。メリハリの利いた所作を身につけ、故人の希望をかなえるうちに遺族の感謝されるような納棺師となっていく過程で、大吾はプライドすら持つようになっていく。

 やがて30年以上も音信不通だった父が死んだとの連絡が入り、大吾は遺体と対面するが、どうしてもそれが父とは思えない。だが、遺体が握りしめていた小さな石ころをみつけて大吾の記憶は一気に蘇る。失われた父子の絆、伝えられなかった思い、そして何より確かに一緒に暮らしたという実感。納棺とは、亡くなった人の願いを残された遺族に伝える最期の場。その心を受け継ぐことで故人は安らかに永眠できるのだ。大吾は石ころを妻の手のひらごと握りしめ、おなかの赤ちゃんにもとに置く。家族を大切にせよという父の遺志は確かに大吾は受け止める。「死」の一つの本質を見極めた見事なラストシーンだった。

福本次郎

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