◆サンドラ・ブロックが年下部下に偽装結婚を強要(80点)
日本で初めて雇用機会均等法の恩恵を受け、同時にその歪みにさらされた女性キャリアたちが、今「アラフォー」と呼ばれる年代を迎えている。彼女たちの中には、もちろん結婚・出産を経験した者もいるが、様々な事情でそれをあきらめた(あるいは、あきらめるだけのチャンスさえつかめなかった)者もまた少なくない。本作のヒロインは、まさにそんな女性たちの分身だ。
ニューヨークの出版社で働く鬼編集長のマーガレット(40歳)は、カナダ人であるにもかかわらずビザの更新を怠ったために国外退去を命じられるはめに。キャリアを棒に振りたくないマーガレットは、3年間、奴隷のようにこき使ってきたアシスタントのアンドリュー(28歳)の腕をひっつかみ、「私たち、結婚します」と宣言するが……。
『扉をたたく人』『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』と、今年になってから不法滞在の外国人をテーマにしたシリアスな映画が連続して公開されているが、切り口を変えれば同じテーマをここまでコミカルに描けるんですね。仕事のためなら花も嵐も踏み越える猛烈ヒロインに扮したサンドラ・ブロックが適役。『スピード』や『デンジャラス・ビューティー』と同様にかなり独善的でアクの強い役どころだが、この人がやるとなぜか憎めない。実年齢では45歳になるブロックは、本作では「何も見せないくせに意外にドキッとさせる」上級テク(?)のヌードシーンまで披露してくれている。
アンドリューに扮したライアン・レイノルズもまた好演。鬼上司のいきなりの求婚に「豆鉄砲を食らったハト」状態になってから、逃れられない運命と知って反撃(「だったらひざまずいて頼めよ。昇進もさせろよ」と要求するわけだ)に出るまでの様々な表情の変化は本当に笑える。
マーガレットの永住権が取れたらさっさと離婚するつもりだった2人だが、アンドリューの実家を訪ねるうちに、次第に気持ちが変化する(お約束です)。家族からキスをけしかけられてやむをえずブチュッとやったとき、2人の間に微妙に何かが通い合うあたりの繊細な描写は、女性監督のアン・フレッチャーならではか。
年齢差12歳のミスマッチ・ロマンスでさんざん笑わせておいて、最後の締めは胸キュンだ。あれこれあって帰国を決意したマーガレットと、引き止めようとするアンドリューとのやり取りに涙しないアラフォーがどこにいよう。ここでマーガレットが語る言葉はすべての独身キャリア女性の建前であり、本音であるに違いない。もちろん、どれだけヒロインに感情移入したところで、映画館を出た彼女たちが年齢差12歳のイケメンに抱きしめられることはないのだけれど。たぶん。
(町田敦夫)